ウーブが魔界でリマと戦っていた頃、遥か彼方の宇宙では、トランクスとパンが宇宙船に乗り、地球から百億光年離れた電波銀河3C324を目指していた。そして、宇宙船を操縦していたのは、ブルマと惑星レードから来た科学者の一人だった。
ここまで然したるトラブルは無かったが、一年過ぎた時点での進行状況は、3C324まで三分の一どころか、十分の一にも届いていなかった。出発前にブルマは、三年で到着すると予想していたが、その予想通りに到着するのは、ほぼ絶望的となっていた。何故ここまで遅れてしまったのかというと、端的に言うと、ブルマの見通しが甘かった。
これまでの移動を山登りに例えると、ブルマは整備された山道を駆け上るイメージを抱いていたが、実際はロッククライミングだった。ロッククライミングは、凸凹した部分を手懸かりや足場にして登っていくが、選ぶ部分を謝れば、その先を登れなくなる。ワープにおいても同様に、謝った星に移動すれば、その先に星が無くて前進出来ず、引き返さねばならない。これまで何度も引き返し、そのために時間を大幅に浪費していた。
こうして操縦士二人は、毎回四苦八苦しながらも3C324に向けて進んでいたが、ボディーガードとして乗船している戦士達は、特に手伝う事も無く、退屈な時間を過ごしていた。
「はーあ、詰まんない。宇宙には、どんな危険が潜んでいるか分からないから、私達が護衛役として乗っているんだけど、これまで危険な事なんて何も無かったわ。私達が乗る意味なんて、果たしてあるのかな?地球で修行していた方が、ずっと効率的よ」
宇宙船の中では、以前に悟飯とクリリンが行っていたイメージトレーニングによる修行以外、特にやる事が無かった。じっとしている事が苦手なパンは、イメージトレーニングを好きではなく、少しやったら嫌になって止めてしまった。パンが乗り気ではないので、必然的に相方のトランクスも手持無沙汰になった。
「パンちゃん。これまで何も無かったからといって、この先もそうだとは限らない。何せ俺達は、未知の銀河内を移動しているんだから。何処かに強敵が潜んでいるかもしれない。宇宙船を操縦している母さん達を危険に晒す訳にはいかないだろ?」
「それはそうだけどさー・・・」
トランクスとパンが話している間に、宇宙船は、とある星に着陸していた。船を操縦しているブルマは、別の星にワープしようとしたが、異変に気付いたトランクスが制止した。
「待って!今、この星で多くの気が減っている。おそらく何者かが人々を殺しているんだ」
「そうかもしれないけど、私達は一刻も早く移動すべきじゃないの?立ち寄った星の事情に一々関わってる時間なんて無いわ」
「母さんの言ってる事は正論かもしれないけど、俺は悪を見過ごせない。ちょっと行って来るよ」
「待ちなさい!トランクス!」
トランクスはブルマの制止を振り切って船外に飛び出し、気が減り続けている方角に向けて飛行した。そのトランクスの後をパンが追った。そして、二人が現場に到着して目撃したものは、一台のロボットにより大勢の人が殺されている光景だった。驚く事に彼等は、そのロボットに見覚えがあった。
「あれは、リブマシーン!何故こんな所に?」
「行こう、トランクス!今は人々を救出しなくちゃ」
トランクスとパンが地上に降り立つと、リブマシーンは彼等を察知し、虐殺を止めて彼等の方を振り向いた。トランクス達がリブマシーンと睨み合っていると、リブマシーンの側に、これまた見覚えのある人物が居た。
「あー!あんたは、あの時の!」
「な、何で居るんだ!?ここは、お前達の住む銀河から、遠く離れているのに・・・」
見覚えのある人物とは、以前リブマシーンに人々を虐殺させていた所を悟空に取り押さえられ、皆の前でジニア人の事を喋り、その後に逃げた男だった。二度と会うはずのない両者が、偶然再会したのである。お互い驚くのも無理からぬ事だった。
「おそらくドクター・リブは、俺達が居る銀河系から手を引いた後、この銀河を攻めているんだ。何しろジニア人は、全銀河の支配を目論んでいるから、俺達が宇宙の旅を続けていれば、何処かでジニア人の手の者と出会っても不思議じゃない。やはり宇宙船に俺達が乗っていたのは正解だった」
サイヤ人の実力を知る男は、リブマシーンを捨石としてトランクス達と戦うよう命じ、自分は一目散に逃げた。しかし、リブマシーンは、トランクスに瞬時に破壊され、男は先回りしたパンに取り押さえられた。男はトランクスの前に引っ立てられ、尋問された。
「何処に逃げるつもりだったんだ?どうせドクター・リブが居る星まで逃げるつもりだろう。そうは問屋が卸さない。ここで出会えたのは好都合だ。お前は惑星ジニアの詳しい場所を知っているか?惑星ジニアの場所が分かれば、ワープで一瞬で行けるはずだ」
惑星ジニアの場所が分かれば、一回のワープで到着出来る。これまでの面倒なワープの繰り返しをしないで済む。一刻も早く悟飯を助け出したいトランクス達にとっては、喉から手が出るほど欲しい情報だった。
「な、何故、惑星ジニアの場所を訊くんだ?それにワープだと?・・・そうか!お前達は、俺達が置いてきた宇宙船を使って、この星まで来たんだな?お前達の原始的な科学力では、こんな遠い星まで来られる宇宙船を造れるはずがないからな。しかし、俺の宇宙船のログファイルにも、惑星ジニアの場所は記録されていない。惑星ジニアは、ジニア人にとって最も大事な星だ。ジニア人か、ごく一部の協力者しか、その場所を知らない」
男の言葉を信用していないパンが、続けて質問した。
「それは嘘よ!あんた達が一年前に銀河系から引き上げた時、惑星ジニアに行ったはずよ!それでも惑星ジニアの場所を知らないって言い張るの?」
「本当に嘘じゃないんだ!信じてくれ!俺は惑星ジニアに行ってない。俺は他の協力者達と共に、ジニア人が支配する別の星に行ったんだ。そこは3C324とは違う銀河にある星だ」
「本当かしら?念のため、あんたの宇宙船を調べさせてもらうわ」
トランクス達は、男に自身の宇宙船が置いてある場所へ案内させた。そして、宇宙船の中に入ると、トランクスはログファイルを調べた。ファイルには複数の星の場所が記録されてあったが、肝心の惑星ジニアの場所の記録は無かった。
「惑星ジニアの場所が分かれば、すぐに行けると思ったんだけど、当てが外れたな」
「ドクター・リブは、惑星ジニアの場所を知ってるんでしょ?だったらドクター・リブに聞けば、惑星ジニアの場所が分かるはずよ。以前は逃げられたけど、今度こそ捕まえてやるわ!」
「そうだね。惑星ジニアの場所さえ分かれば、地球に残してきた仲間を連れて殴り込みが出来る。よーし、運が向いてきたぞ」
ドクター・リブを捕らえ、彼から惑星ジニアの場所を聞き出す事にしたトランクスは、再び男に問い質した。
「おい!ドクター・リブは、何処に居るんだ?奴の居る星は、流石に知ってるだろ?」
「か、勘弁してくれ。前回もドクター・リブの居る星に、お前達を連れて行ったせいで、後で酷い目に遭わされたんだ。また同じ事をすれば、今度こそ俺は殺される」
「俺達に殺されるのと、ドクター・リブに殺されるのと、どっちが良いんだ?」
男は情に訴えて、ドクター・リブが居る星まで案内するのを免れようとした。しかし、そんな姑息な手は、二人に通用しなかった。次に男は、どうすれば自分が助かるかを考えた。もしドクター・リブが居る星を教えなければ、教えるまで酷い目に遭わされ続けるだろう。一方、教えたとしても、その後で彼等がドクター・リブを捕らえれば、自分は協力の見返りとして、死を免れるかもしれない。自分が助かる事しか頭に無い、この情けない男は、ドクター・リブを裏切る事にした。
「・・・分かった。ドクター・リブが居る星の場所を教える。それで俺を見逃してくれ」
「仕方ない。ドクター・リブが居る所まで案内したら、何処へなりと行け」
「よし!商談成立だ!」
この男は、ドクター・リブに命令されたとはいえ、今までリブマシーンを使って大勢の人を殺してきた。許せるはずなかったが、情報を訊くだけ訊いてから殺すのも気が引けた。
その後、トランクス達は男を連れてブルマが待つ宇宙船に戻り、これまでの経緯を彼女に説明した。そして、男から訊いた星へ宇宙船でワープした。到着した星は、以前にドクター・リブが銀河系侵略の拠点としていた所と同様に複数の家屋が点在していた。トランクスは、ブルマを宇宙船に残し、パンと男を連れて外に出た。それから男を抱え、男の案内で、ドクター・リブの居場所まで飛行した。
トランクス達の出現は、星の上空に浮かんでいる監視用の人工衛星で、既にドクター・リブに知られていた。新しく支給された基地の中で、ドクター・リブは、トランクス達が映っているモニターを観ながら、忌々しげに呟いた。
「こんな所にまでサイヤ人が来るとは・・・。しつこい連中だ。だが、前回と違い、今回は二人だけ。しかも、こちらには取って置きの秘密兵器まである。もうドクター・ハートに即座に報告する必要はあるまい。今度こそ俺だけの力で、サイヤ人を血祭りに挙げてやるぞ。ふっふっふっ・・・」
ドクター・リブは、不気味な笑みを浮かべた。
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