其の二十六 ドクター・リブの最期

ドクター・リブは、思いがけぬパンの登場に戸惑っていた。

「な、何故、お前が居るんだ?この部屋に来る途中、誰も行く手を阻まなかったのか?」
「え?誰もが普通に通してくれたから、スムーズに進めたけど・・・」
「くっ、大勢の協力者達を一度に呼び戻したのが裏目に出たか・・・。こんなに人が多く居ては、お前の顔を知っている一部の協力者達が、お前の侵入に気付かなくても不思議ではない」

ドクター・リブが居る管制室では、誰もがトランクスが映っているモニターを注視しており、他のモニターには目もくれなかった。リブマシーンは全部出払っていたので、パンを撃退するものは基地内に存在しなかった。管制室の外は緊急招集された者達で溢れ返っており、ほとんどの者がサイヤ人を噂程度でしか知らなかった。そのために彼等は、パンをサイヤ人とも、ましてや敵だとも思わなかった。偶然が重なり、パンは容易に侵入出来た。

ところが、ドクター・リブは全く悲観していなかった。パン一人だけなら、この状況を上手く切り抜けられると考えていた。パンの実力を見くびっていたからではない。パンが負傷していたからである。現にパンは、怪我のせいで普通に立っているのも困難な状態だった。

「こんな小娘一人で何が出来る?邪魔だ!死ね!」

パンをよく知らない協力者の一人が、所持していた銃を取り出し、パンに向けて撃った。しかし、弾丸は避けられ、その協力者はパンに殴り飛ばされた。

「リブマシーンならともかく、あんた達が私をどうこう出来るはずないでしょ!さあ!観念しなさ・・・ぐふっ」

パンは吐血し、片膝を付いた。超リブマシーンからの攻撃を受けた時に負ったダメージは、決して小さくなかった。それでもパンの体を突き動かしたのは、父親を一刻も早く助け出したという執念からだった。ドクター・リブは、宇宙船が格納してある部屋まで走り去ろうとしたが、パンにズボンの裾を握られて転ばされた。

「に、逃がさないって言ってるでしょ!絶対に惑星ジニアの場所を話してもらうわ!確かあんたは、その場所を頭の中に記憶しているのよね?知らないなんて言わせないわよ!怪我をしていても、私の方が遥かに強いんだから!」

パンは鋭い目つきで、ドクター・リブを睨んだ。パンの鬼気迫る表情が、ドクター・リブに脅威を抱かせた。

「くっ、何のために惑星ジニアの場所を知りたいんだ?」
「惑星ジニアの場所を聞き出せば、あんた達から奪った宇宙船を使って惑星ジニアに行ける。惑星ジニアに行ったら、あんた達が攫った私のパパを助け出せるからよ」
「ああ、あの男か。あいつは既にドクター・ハートに洗脳され、現在は協力者として働いている。仮に会えても、お前を敵として排除しようとするだろう」

ドクター・リブの言葉に、パンは目の前が真っ暗になった。体が震え、目から涙が流れた。

「そういう訳だから、お前達が惑星ジニアに行っても無駄だ。諦めて、とっとと帰るんだな」
「ゆ、許さない!ジニア人を絶対に許さない!惑星ジニアに乗り込んでジニア人を全員倒し、パパの無念を晴らしてやるわ!」

パンは烈火の如く怒っていた。ドクター・リブは己の失策に気付き、慌てて火消しに務めた。

「待て!今のは嘘だ!奴は洗脳されていない!お前達の惑星ジニア行きを諦めさせるために、嘘を付いたんだ!奴は・・・」
「うるさい!」

怒りに駆られたパンは、ドクター・リブの左腕を殴った。顔を殴らなかったのは、殺さないためだった。殴られたドクター・リブは、死なずに済んだものの、腕を負傷した。

「ひいいい・・・」
「今すぐ惑星ジニアの場所を言いなさい!さもないと、今度こそ殺すわよ!」

ドクター・リブは、パンの剣幕に震え上がった。側に居た協力者達も、パンの迫力に圧倒されて、一歩も動けなかった。パンへの説得が失敗に終わり、周りも頼りにならない以上、ドクター・リブは打つ手を失った。この場を切り抜けるためには、惑星ジニアの場所を話す以外に無かった。しかし、惑星ジニアの場所を敵に教える事は、完全な裏切り行為である。そんな背信行為をすれば、出世の道が絶たれるばかりか、間違いなく処刑される。

しかし、ドクター・リブにも彼なりの意地があった。ある決意を固めたドクター・リブは、ポケットからリモコンを取り出すと、そのリモコンにある赤いボタンを押した。その途端、基地全体に警報音が鳴り響いた。

「これは一体・・・。あんた、一体何をしたのよ!」
「この基地は、五分以内に爆発する。この身に何が起ころうとも、惑星ジニアの場所を言う訳にはいかんのだ!」

ドクター・リブは、己の命を犠牲にしてまでも惑星ジニアの場所を明かさない覚悟だった。警報の意味を知る協力者達は慌てふためき、基地内は大混乱に陥った。誰もが我先にと基地から脱出しようとしたが、通路が混雑して、前に進めなかった。そして、管制室の中には、パンとドクター・リブだけが残った。

「私達に星の場所を教えるよりは、自ら死を選ぶのね。でも、あんたを抱えて、壁を突き破って脱出する事ぐらい朝飯前よ。つまり決死の覚悟も無駄という訳ね。さあ!意地を張ってないで、今すぐ爆発を止めなさい!このままだと、あんたの仲間まで死ぬ事になるわよ!」
「俺を抱えて脱出する事ぐらい予測済みだ。だから本当は三十秒なのを、五分と言ったのだ」
「何ですって!?」

パンが驚いた瞬間、基地は大きな音を上げて大爆発し、跡形も無く消失した。ドクター・リブは、彼の協力者共々、基地と運命を共にした。唯一人、パンだけは生き残った。パンは逃げ遅れたが、日頃の鍛錬のお陰で、軽い火傷で済んだ。しかし、パンは折角ドクター・リブを追い詰めておきながら、肝心の惑星ジニアの場所を聞き出せなかった事に、やり切れない思いで立ち尽くしていた。

そんなパンの元に、トランクスが駆けつけてきた。彼は既に超リブマシーンを完全に破壊していたが、パンが何処にも見当たらなかったので、方々を探し回っていた。その折に、突然基地が爆発し、爆発の際に発生した煙の中からパンの姿が見えたので、こうして駆けつけた。パンはトランクスに基地内での経緯を説明した。

「・・・なるほどね。そんな事があったのか」
「ごめんなさい。私が出しゃばったばっかりに、惑星ジニアの場所を聞き出せなかった」
「仕方ないよ。おそらく俺が乗り込んだとしても、結果は同じだったろう。また、これまでと同じ様にワープを繰り返していけば、いつか惑星ジニアに着くだろう。さあ!一先ず地球に帰って傷を治し、そして悟空さん達に事の仔細を報告しよう」

その後、トランクス達は地球に戻り、パンはデンデに回復してもらった。そして、修行中だった悟空達の元に向かい、これまでに起こった出来事を伝えた。すると、ピッコロから叱責された。

「二人だけで勝手な事をするんじゃない!今回は運良く勝ったから良いが、もし負けて地球に帰れない状況に陥ったら、俺達は助けに行きたくても、お前達が何処の星に居るか分からないし、探そうにも範囲が広過ぎて、実質無理なんだぞ!もし敵と遭遇したら、まず俺達に伝え、共に戦うべきだろうが!」

悟空達が交代で宇宙船に乗り込むのは、操縦者達を危険から守るためである。敵と戦うためではない。もし訪問先の星で敵と遭遇し、しかもそれがジニア人関連なら、単独で戦おうとしないで地球に戻り、まずは仲間達と相談すべきであるというのがピッコロの考えだった。

「ピッコロさんの仰っている事は正しいと思います。ですが、もしドクター・リブが父さん達の姿を見れば、自分が勝てない事を悟り、すぐに逃げていたでしょう。今回は俺達だけだったからこそ、奴は油断して、最後まで逃げなかったんだと思います。ドクター・リブを捕らえ、惑星ジニアの場所を聞き出すためには、危険を冒してでも俺達二人だけで戦うしかなかったと思います。結局、ドクター・リブには死なれてしまい、肝心の情報を聞けずじまいでしたが・・・」

悟空達全員でドクター・リブの元へ行こうとすれば、前回の様にドクター・リブ側にも援軍が来ていたかもしれないし、あるいはトランクスが言うように早々に逃げられていたかもしれない。ドクター・リブに今の戦力だけでも勝てると思わせ、その場に留まらせるためには、パンと二人だけで事に当たった方が良いというのがトランクスの考えだった。

「屁理屈を言うんじゃない!悟空とベジータが居ると戦略上まずいなら、俺とウーブだけでも連れて行くべきだろうが!それも駄目なら、せめて戦場となる星の場所を、俺達に事前に伝えておくべきだ!悟飯を助け出すための行動とはいえ、それでお前達に何かあったら、奴が悲しむだろうが!」

ピッコロの説教は終わりそうになかった。ところが、何とベジータが二人に助け舟を出した。

「もう充分だろう、ピッコロ。二人も反省しているようだし、そろそろ許してやれ。トランクスとパン。ピッコロが真剣に怒るのは、それだけお前達を大事に思っているからだ。今回のお前達の独断行動は、決して正しいとは言えないが、俺にも似たような経験がある。やはり血は争えんな。それにしても、トランクス。お前が超サイヤ人4となって戦っている姿、観たかったぞ」

ベジータは、息子の成長が嬉しかった。ベジータの言葉で、場の空気が収まった。

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