其の二十九 スパイン師団

トランクスとパンが、ドクター・リブ一味を滅ぼしてから更に月日は流れた。悟空達は、依然として宇宙の旅を続けており、この日はピッコロとウーブが宇宙船に乗船していた。そして、いつも通り安全を確認してから星から星にワープして移動していた一向だが、移動した後すぐに大きな音がして宇宙船が大きく揺れ動いた。

「な、何だ!?一体、何が起きたんだ!?」
「大変です!船が外部から攻撃を受けました!外に何者かがいる模様です!」
「何だと!?新たな敵か!?」

ピッコロとウーブが急いで外に出ると、得体の知れない異星人の一団がピッコロ達を睨んでいた。一団には様々な種族が居たので、それぞれ別の星に住む者達で構成された集団だと想定された。そして、宇宙船を攻撃してきたのは、この者達の仕業だとピッコロ達は瞬時に判断した。

「何者だ貴様等!俺達は、貴様等に恨みを買った覚えは無いぞ!この星に来たばかりだからな!何故、俺達の宇宙船に攻撃したんだ?返答次第では只では済まさんぞ!」
「黙れ!お前達の魂胆は、分かっているんだ!そう易々と俺達は屈したりしない!行くぞ!」

謎の一団は、意味不明な事を言い出すと、徒党を組んでピッコロ達に襲い掛かってきた。しかし、ピッコロ達との実力差は歴然としており、あっという間に全員が叩き伏せられた。ピッコロ達は、彼等が宇宙船を攻撃した理由を聞くため、敢えて止めを刺さず、ダメージも最小限に抑えていた。

「くそっ!また負けたのか!だが、俺達は決して協力者になんかならない!殺せ!」
「何を訳の分からん事を言ってるんだ。お前達は何か勘違いしていないか?」
「何?お前達は、ジニア人の手先ではないのか?ジニア人の宇宙船が、突然目の前に現れたから、奴等が攻めてきたと思って、つい攻撃したのだが・・・」

ピッコロ達は、ジニア人の宇宙船に乗って来た。知らない人から見れば、ピッコロ達はジニア人の一味だと勘違いしても仕方なかった。

「この銀河にもジニア人が侵攻しているようだ。そして、お前達は、ジニア人に深い恨みがあるようだ。しかし、俺達は、ジニア人の手先ではない。この船は、奴等から奪った物だ。お前達のした事は、許してやろう。その代わり、この銀河に攻めてきたジニア人について知っている事を全て話せ」

一団は互いに顔を見合わせた。ピッコロ達を信じて話して良いのか分からなかったが、襲撃した自分達を殺そうとはしなかったので、少なくとも悪人には思えなかった。また、自分達についてではなく、ジニア人について話せと言われたので、話して困る事でもなかった。一団は立ち上がって円陣を組んで協議し、問題無いとの結論に達した後、ピッコロ達に話し始めた。

「三ヶ月ほど前、ドクター・スパインというジニア人が、この銀河に攻めてきた。奴は、スパインボーグを使い、これまで数多くの星を攻め滅ぼしてきた。スパインボーグとは、ドクター・スパインに仕えるサイボーグの呼称だ。スパインボーグ共は、星を征服しつつ、強い戦士を見つけて勧誘する。勧誘に応じればスパインボーグに改造され、拒めば殺される。俺達も誘われたが、断固として拒否した。すると、スパインボーグ達は、俺達の仲間を何人も殺した」

ドクター・スパインに仕えるスパインボーグ達は、行く先々の星で強い戦士を勧誘し、ドクター・スパインの元に連れていく役目を担っていた。そして、スパインボーグに改造して自分達の戦力を増やしていった。大抵は命欲しさに勧誘に応じるが、中には拒否する者も居る。そういう者を強引に連れて行って改造しても、戦力になるどころか自分達の脅威になるかもしれないので、容赦なく殺される。

「なるほど・・・。そして、お前達は何とか逃げ延び、この星に集まって潜伏していた訳か。攻めてきてから三ヶ月しか経っていないなら、ドクター・スパインは、この銀河の侵略を完遂しておらず、この銀河内の何れかの星に留まっているはずだ。俺達は先を急ぐ身だが、ジニア人と聞いては見過ごせない。ドクター・スパインを捕まえて惑星ジニアの場所を白状させれば、すぐに惑星ジニアに行き、悟飯を救い出せる」

スパインボーグの実力は未知数だが、ピッコロは既に彼等と戦う意思を固めていた。悟飯が連れ去られてから何年も経っているが、まだ生きていると信じ、一刻も早く救い出したいと願うからであった。

「あんた達ほどの実力なら、スパインボーグにも勝てるだろう。しかし、スパインボーグには、スパイン師団と呼ばれる四人の恐るべき奴等が居る。その強さは尋常ではない。俺達でもスパインボーグ相手なら、そこそこ戦えたが、スパイン師団には全く歯が立たなかった。おそらくスパイン師団の実力は、あんた達より上だろう。悪い事は言わない。この銀河から早急に出て行くべきだ。さもないと、いずれスパイン師団に見つかって殺されるだろう」

ここでウーブが話に割り込んできた。

「個人的には俺一人で戦いたいですけど、ここは念のため、悟空さん達を連れてくるべきじゃないですか?俺達だけで戦って敗れでもしたら、取り返しが付きませんし・・・」
「その通りだ。以前、トランクス達がしたような独断行動は、本来ならば許されない。敵の実力が未知数なら、こちらは万全の状態で臨んだ方がいい。スパイン師団の実力は、ハートボーグ並かもしれんしな。一旦、地球に帰るぞ」

ピッコロとウーブは、自分達が乗ってきた宇宙船に目を向けると、船を操縦していた科学者達が外に出て、先程攻撃された箇所を調べていた。船には大きな穴が空いており、これまで通り無事に動くのか疑わしかった。心配になった二人は、科学者達に尋ねた。

「船の状態は、どうだ?すぐに動けそうか?」
「大変申し上げ難いのですが、船の動力部分がやられ、もう飛び立つ事が出来ません」

宇宙船が壊れても、多少の故障なら科学者達で直せる。そのために科学者達に宇宙船を操縦してもらっていた。しかし、外部から攻撃されて動力部分が壊れるなんて完全な想定外であり、彼等の知識をもってしても、どうしようもなかった。

「それでは地球に連絡し、この星の場所を伝え、替えの宇宙船で来るように伝えて下さい。まだ二台あるはずです」
「それも無理です。ここは地球から何十億光年も離れています。そのため、メッセージもワープさせなければ地球に届かないのですが、ワープに必要な動力部分が壊れているため、メールのやり取りも不可能になってしまいました」

ピッコロは、目の前が真っ暗になった。宇宙船が壊れ、地球との交信も出来ないなら、悟飯を救うために惑星ジニアに向かうどころか、地球に戻る事も叶わず、この星で一生暮らさなければならないのかと悲観に暮れた。しかし、同じ境遇にあるウーブは、全く失望していなかった。

「宇宙船が作動しないなら、この星から一歩も動けんではないか・・・」
「スパインボーグ達は、ジニア人の船を所持していますから、それを奪えば良いんですよ」
「それだと俺達だけでスパインボーグやスパイン師団と戦わねばならないが、この際、止むを得まい。しかし、どうやって奴等と出会うかだ。この星で大人しく待っていたのでは、いつ奴等が来るか分からない。出来れば、奴等が拠点とする星に行ければ良いのだが・・・」

ピッコロ達が思い悩んでいると、一団の一人が話し掛けてきた。

「どうやら大変な事をしてしまったようで、本当に申し訳ない。お詫びと言っては何だが、俺達が使っている宇宙船があるから、それに乗せて、その地球とかいう星まで送り届けようか?」
「馬鹿を言え!ジニア人の宇宙船以外では、地球に着く前に俺達は寿命で死んでしまうぞ!それよりも、ドクター・スパインか、その一味が拠点とする星の場所を知らないか?そこに行けば、奴等の宇宙船があるはずだ。そいつを奪えれば、すぐにでも地球に帰れる」

一団のメンバーは、お互い顔を見合わせた。その様子から判断して、何かを知っているが、それを言い難そうだった。

「何か知っているなら話せ。何でも構わん」
「実は、スパイン師団が拠点とする星が、俺達の宇宙船でも行ける距離にある」
「それは好都合だ。その星まで俺達を連れて行け」
「スパイン師団には勝ち目が無いと言ったじゃないか。俺達まで巻き添えを食うのは御免だ」
「誰のせいで、こうなったと思っているんだ!お前達が宇宙船を壊したせいだろうが!」

一団が躊躇したので、ピッコロは激怒して怒鳴り散らした。慌ててウーブが仲裁に入った。

「ピッコロさん、落ち着いて下さい。彼等が怖がってるじゃないですか。彼等も俺達の宇宙船を壊した事を悪いと思ったからこそ、自分達の宇宙船への乗船を、俺達に勧めたんじゃありませんか。それに、彼等はスパインボーグ達に酷い目に遭わされたんです。奴等の本拠地に向かうのを嫌がっても、仕方ないじゃありませんか」
「お前の方こそ何で冷静でいられるんだ?こいつ等を説得するための策でもあるのか?」

一度は寛大な態度を示したピッコロだが、今では様相が変わっていた。ウーブは、そんなピッコロを諭し始めた。

「戦うのは俺達なんだから、目的の星まで着いたら、彼等だけ引き上げさせましょう。それなら問題は無いはずです。俺はリマと戦って敗れ、ピッコロさんの期待に応えられなかった事を引き摺っていました。スパイン師団との一戦は、汚名返上の機会だと思えたのです。俺は魔界から帰った後も修行を続け、あの時より強くなっています。悟空さんは幾つも死線を潜り抜けてきたんでしょ?この程度の危機に対処出来ないようでは、俺は悟空さんを超えられません」

ピッコロは、ウーブの闘志に感心した。また、一団もスパイン師団が拠点とする星まで着いたら、ピッコロ達を降ろし、即座に引き上げるという考えに了承した。そして、一団は自分達の宇宙船が置いてある場所までピッコロ達を連れて行った。この星に来るまで船を操縦していた科学者二人も、地球を含めて、これまで立ち寄った星の場所を記録してあるログファイルを持って同行し、全員が一団の船に乗り込んだ。そして、スパイン師団が拠点とする星に向けて出発した。

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