其の三十一 取り込まれたピッコロ

ピッコロ、ウーブ、ネータは、平原を戦場に決め、その上に降り立った。三人が地上に着地すると、ピッコロとウーブは、小声で話し始めた。

「ウーブ。俺は右から攻めるから、お前は左から・・・」
「待って下さい。俺一人だけで戦わせて下さい。絶対に負けられない戦いなのは分かってますが、敵は一人だけなんです。だったらこちらも・・・」
「一対一の戦いに拘るか・・・。お前も悟空に似てきたな。良かろう。やってみろ。ただし、お前が負けそうだと思ったら、すぐに加勢するからな」

ピッコロは、少し離れた場所にある小高い丘の上に移動し、成り行きを見守る事にした。ピッコロが離れた後、ネータは対峙しているウーブに話し掛けた。

「大した自信だな。二対一で戦えるのに、わざわざ一対一を選ぶとはな」
「まあな。それよりも訊きたい事がある。惑星ジニアの場所を知っているか?」
「馬鹿か、お前は?俺は、ジニア人に仕える軍人だぞ。その俺が、ジニア人の本拠地の場所を教えるはずがないだろ」
「そうか・・・。なら、お前を生かしておく理由が無い。叩き潰してやる」

会話を終わらせると、ウーブとネータは共に身構え、両者同時に飛び掛かった。サイボーグは気が無いため、対戦相手は実際に戦うまで実力が全く分からない。そこでウーブは力を抑え、まずはネータの力量を測る事にした。ところが、ネータも力を抑えて戦うため、力量を測り難かった。

ウーブが少しずつ力を解放すると、それに合わせてネータも力を増していくので、しばらく均衡が崩れなかった。ウーブは、まだ人の姿で戦っているとはいえ、それでも以前に比べると、劇的に強くなっていた。しかし、対するネータは、ウーブに劣らぬ力で対抗していた。

やがて互角の展開から、ウーブは防戦一方となった。対等に渡り合っていた時は、お互い相手の攻撃を上手く捌いていたが、今ではウーブが五回に一回の割合で攻撃を受けるようになっていた。体勢を立て直さないとまずいと思ったウーブは、ネータから距離を置いた。ネータも無理に追撃しようとせず、お互い一息付いた。

「生身の人間が、ここまで強いとはな。お前もジニア人の為に働いたらどうだ? ミレニアムプロジェクトが完了した暁には、働きに応じて報酬を好きなだけ貰える。 サイボーグに改造されれば、更に強くなれるし、もしかしたら俺と同じスパイン師団の一員になれるかもしれない。スパイン師団は、スパインボーグの中でも特に優秀な者のみで構成された名誉ある部隊なのだぞ」

ウーブの実力を認めたネータは、ウーブを勧誘しようとした。しかし、ウーブが応じるはずなかった。

「俺は平和を守る為に鍛え、戦うんだ。罪の無い人々を殺すお前達とは相容れない。遊びは終わりだ。俺の全力パワーで一気に片を付けてやる!」

ウーブは気を高め、魔人と化した。そして、猛烈なスピードでネータに迫った。ウーブは急激に速度が増したため、ネータは反応すら出来ず、まともに体当たりを喰らった。これを皮切りに、形勢は一気に逆転した。ウーブの怒涛の勢いの前に、ネータは全く抵抗出来ずに攻撃を喰らい続け、最後は地面に勢いよく叩きつけられた。これで勝負ありかと思われたが、ネータは信じられないタフさを見せて立ち上がった。しかも立ち上がった時、ネータは何故か少し笑っていた。

「この状況下で、よく笑っていられるな。お前にも俺と同じ様に、何か秘められた力があるのか?」
「まあな。先にお前の敗因を教えてやろう。それは、お前が一人でなかった事だ」
「何だと!?それは、どういう意味・・・」

ネータの謎めいた台詞に、ウーブが戸惑っている間に、ネータはある人物の元に向かった。それは、少し離れた場所から戦いを観戦していたピッコロだった。ピッコロにとって全く予想外の事態だったため、ピッコロは反応が遅れ、ネータに背後を取られてしまった。

「貰ったぞ!その体!」
「し、しまった!」

ネータが後ろからピッコロに抱きつくと、ピッコロとネータの体が混じり合った。二人の体が一つになり、やがて一人となった。その姿は、基本的にネータだが、肌が緑色で、額にはナメック星人特有の触角が生えていた。そして、驚きの表情を浮かべているウーブの元に、ネータが歩み寄った。

「な、何だ?何が起きたんだ?」
「流石に驚いてるようだな。これが俺の特殊能力『合体』だ。ターバンの男は俺に取り込まれ、俺と一体になった。そして、俺は更に強くなった」
「汚いぞ!ピッコロさんを使うなんて!」
「汚い?これが試合だとでも思っていたのか?殺し合いに卑怯も糞もあるか」

新たな力を手に入れたネータは、勇んでウーブに襲い掛かった。ウーブが修行で更に強くなったように、ピッコロも修行で一段と強くなっていた。そのピッコロの強さを己の強さに加算したネータは、スピードもパワーも飛躍的に上昇していた。パワーアップしたネータに対抗するため、ウーブは遂に力を全開した。しかし、ウーブが本気になっても、決して優位な展開にはならなかった。今のネータは、魔人となったウーブに匹敵する程の力を持っていた。

双方の間で激しい戦闘が繰り広げられた。一方が殴ると、もう一方が殴り返す様相で、対戦する二人の体は、みるみる傷ついていった。しかし、ウーブは魔力で傷を治せるので、長期戦になると、段々ウーブ側が優勢となった。このままでは不利だと思ったネータは、戦闘の最中に話し掛けた。

「お前は平然と俺に攻撃しているが、俺が死ねば、ターバンの男も死ぬ。それでも良いのか?」

この台詞にショックを受けたウーブは、動きが止まった。ネータはその隙を見逃さなかった。ネータの左腕が伸長し、ウーブの右足首を掴んだ。そして、ウーブの足首を握ったまま左腕を上に掲げた。次に左腕を勢いよく振り下ろし、ウーブを地面に叩きつけた。ネータはピッコロの力だけでなく、身体能力まで取り込んでいた。ネータは地面に埋もれたウーブを再度持ち上げると、もう一度地面に叩きつけた。ネータは、この攻撃を何度も続け、ウーブは身を固めて耐えていた。

ウーブは攻撃に耐えながら、ピッコロを助け出す方法を考えていた。しかし、良いアイデアが思いつかなかった。それがウーブの足枷となり、やがて戦闘に専念出来なくなった。もし悟空が同じ状況に陥っても、決して悲観せずに、あの手この手を使って、ピッコロを助けようとするだろう。並外れた力と魔力はあっても、若年ゆえの経験不足と生来の優しさが災いし、ウーブは窮地に陥っていた。

「仲間を人質に取られたら、抵抗しなくなったな。詰まらん。それならば、もう止めを刺すとするか」

ネータは伸びた左腕でウーブを持ち上げたまま、右手の人差し指と中指を己の額に押し付けた。そして、この二本の指先に、体内のエネルギーを集約した。

「仲間の技で死ねるなら、お前も本望だろう」

ネータは取り込んだピッコロの技である魔貫光殺砲で、ウーブを殺すつもりだった。対するウーブは、空ろな表情で一点を見つめていた。何の対策も思いつかず、完全に戦意を喪失し、正に敗北寸前だった。そんなウーブの心に、突然聞いた事がある声が聞こえてきた。

「おい、ウーブ。しっかりしろ」
「こ、この声は、まさかブウさん?」
「そうだ。このままじゃやられちゃうぞ。早く何とかしろ」
「そ、そうは言っても、奴を倒せばピッコロさんも死んでしまいます。一体どうすれば・・・」
「諦めるな。成功するかどうかは分からないが、まだ方法はある」

ブウからある事を告げられたウーブは、闘志が甦った。ネータの指先から放たれた魔貫光殺砲を、ウーブは上体反らしで避けると、続いて自分の足首を握っているネータの手を、もう一方の足で蹴って放させ、素早く地面に着地した。魔力で再度傷を治したウーブは、再びネータと睨み合った。

「まだ戦いを諦めていなかったか。そうこなくちゃ面白くない」
「ピッコロさんと合体し、俺を惑わすとは許せない。ピッコロさんを助け出した後、必ずお前を倒してやる!」

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