地球から何十億光年も離れた、とある銀河の征服の役目を担っているジニア人のドクター・スパインと、その幹部であるスパイン師団を一掃するため、悟空達は分担し、各自に割り当てられた星へと向かった。そして、ベジータは愛娘ブラが操縦する宇宙船に乗り、ある惑星に辿り着いた。ベジータ親子が下船すると、そこは楽園かと見紛うばかりの美しい海岸だった。澄み切ったエメラルドブルーの海に魅せられ、ブラは目を輝かせていた。
「こんな海で泳いだら、気持ち良いんだろうな。あーあ、水着を持ってくれば良かった」
「おい。ここには遊びに来たんじゃないぞ。こう見えても敵地なんだ。もう少し緊張感を持て」
「水着を取りに、地球に戻ろうかしら。・・・あら、私の水着姿を想像して、にやけてなかった?」
ブラの言動に、ベジータは赤面して怒り、すぐさまブラの頭を叩いた。
「いったーい。もう!ぶたないでよ!軽い冗談なのに・・・」
「やかましい!親を揶揄うんじゃない!」
頼れる父親と一緒に居るせいか、ブラは敵地にも拘らず、全く緊張感が無かった。
「ピッコロの話によると、敵は拠点とした星の上空に人口衛星を浮かべ、星の内外を監視しているそうだ。この星も同様だろう。だから俺達の行動は、敵に全て観られてるんだぞ」
「えっ!?それじゃあ私達が来た事を、敵はもう分かっているのかな?」
「おそらくな。ここで大人しく待っていれば、その内に敵の方から俺達に接触してくるだろう」
標的であるスパイン師団や、その配下のスパインボーグは、サイボーグであるため気を持たない。そのために気を察知して、彼等が居る場所に行く事が出来ない。無闇に探し回れば、敵と出会う前に一時間が過ぎ、何もしないまま地球に帰る羽目になる。そのためにベジータは、敵が自分達の到来に気付いていると想定し、こちらからは敢えて動かずに敵からの接触を待つつもりだった。
五分後、軍服を着た三人組が飛んで来た。三人からは気を感じられないため、スパインボーグだとベジータは瞬時に悟った。気が無くても、ベジータは周囲に神経を張り巡らせて警戒していたので、三人の接近に即座に気付いた。待望の敵の出現に、ベジータは手薬煉引いて待ち構えていた。ところが、三人組はベジータではなく、その後ろに居たブラの眼前に降り立った。そして、三人組は下卑た表情を浮かべつつ、ブラに誘いの言葉を掛けた。
「ようよう、姉ちゃん。何処から来たんだ?可愛いなあ」
「あら?やっぱり私の美しさは、宇宙共通なのね」
「なあ、俺達と良い事して遊ばねえか?」
「うーん。どうしようかしら?折角のお誘いだし、連れの男を倒したら、考えてあげても良いわよ」
ブラはそう言うと、ベジータの方に視線を向けた。三人のスパインボーグも、釣られてベジータを見た。彼等は元々、この星に突然現れた不審者を退治するよう命令されて来たので、ブラの提案は願ってもない事だった。三人組は、ベジータの周りを取り囲んだ。
「何者かは知らんが、この星に来るとは運の無い奴だ。だが安心しろ。お前の連れの女は、俺達がたっぷり可愛がってやるぜ。お前を殺した後でな」
「欲に目が眩んで相手の力量を見切れんとは、お目出たい連中だ。この俺と貴様等との実力差を、その身で味わえ!」
ベジータは一瞬で二人を倒すと、残る一人の首を握り締めた。そして、もがき苦しむスパインボーグに話し掛けた。
「この星にスパイン師団が一人居るはずだろ?そいつを連れて来い」
「わ、分かった。言われた通りにするから放してくれ」
ベジータがスパインボーグを解放すると、彼は這う這うの体で飛んで行った。ベジータが期待通りに勝ったので、ブラは満足げに話し掛けた。
「さっすがパパ。強いわねー」
ブラは賛辞の言葉を送ったが、ベジータは喜びもせず、ブラを睨み付けて叱った。
「ブラ!先程のふざけた言葉は何だ!普段もあんな事を言ってるのか?まさかとは思うが、学校で言葉巧みに男を誘惑してるんじゃないだろうな?」
「してないわよ!ああ言えば、パパもやる気が出るんじゃないかと思って・・・」
「やる気どころか、心配事が増えたぞ。俺が敵を倒すまで、お前は大人しくしていろ!」
ベジータの怒りは収まらなかった。ベジータが怒るのは、それだけブラの事を気に掛けているからである。高校生となったブラは、母親に似て美しく成長していた。そのためにベジータは、世間一般の父親と同様に、自分の娘に悪い虫が付かないか日頃から心配していた。しかし、戦闘に明け暮れるサイヤ人の王子として育ったベジータには、平和な地球で育った娘との接し方が分からなかった。
一方、ベジータの剣幕に嫌気が差したブラは、適当な理由を見つけて、ベジータから離れようとした。
「あーあ。何だか眠くなってきちゃった。パパの用事が済むまで、私は向こうの木陰で寝てくるわ」
「眠くなっただと?地球の時間だと、今はまだ昼間だ。また夜更かしをしていたな。昨晩は何をしていたんだ?」
「五月蠅いわねー。昨日はボーイフレンドと夜通しで電話で話してたのよ」
「ボ、ボ、ボーイフレンドだと!?」
ブラは苛立って、つい出鱈目を言ったが、ベジータはブラの言葉を額面通りに受け止め、激しく動揺した。今時の高校生なら恋人が居ても普通だが、娘の父親にとっては大事件だった。世間の若者がどんなに乱れても、自分の娘だけは芯がしっかりしているから大丈夫だと信じていたベジータにとっては、到底受け入れられなかった。言いようのない悲しみと怒りが、ベジータの体の中を駆け巡っていた。
「お前にボーイフレンドが居るなんて聞いてないぞ!そいつは俺より強いんだろうな?俺より強くないと、絶対に認めんぞ!」
「パパより強い人なんて居る訳ないでしょ!まさか悟空さんと付き合えとでも言うの?」
「カカロットだと!?あのロリコン野郎!俺の大事な娘をよくも!地球に帰ったら、殺してやる!」
「悟空さんと付き合ってるなんて言ってないでしょ!・・・もう良いわ。勝手にしてよ」
娘を大事に思う余り、ベジータは我を忘れ、完全に取り乱していた。こうなるとべジータは、もう手が付けられないので、ブラは嵐が通り過ぎるのを黙って待つ事にした。しばらくベジータの興奮は収まらず、一人で激怒していた。そんな折、先程逃げたスパインボーグが、別の男を連れて戻ってきた。その男は、何故か黒いパンツ以外は何も身に付けていなかった。二人はベジータの側に降り立つと、スパインボーグの方が話し始めた。
「さっきはよくもなめた真似をしてくれたな。お望み通り、スパイン師団のレック様を連れて来たぞ。レック様の実力は、俺とは比べものにならない。これでお前も終わりだ」
レックはベジータの強さの片鱗を、人工衛星経由の映像で観ており、容易な相手ではないと理解していた。レックはすぐに身構えて、今にもベジータに飛び掛からんとする体勢になった。ところが、ベジータはレックに背を向けたまま、ブラに向かって怒鳴り続けていた。
「ちょっと、パパ。敵が来たわよ。早く・・・」
「五月蠅い!今はそれ所ではない!お前にボーイフレンドなど、俺は断じて許さんぞ!」
「・・・あのさあ、パパ。ここに来た目的を忘れてない?」
依然として興奮状態のベジータは、敵が視界に入っていなかった。ところが、レックはベジータの事情などお構いなしに、ベジータ親子目掛けてエネルギー波を放った。しかし、ベジータはエネルギー波が迫っている事を察知し、ブラを抱き抱えて上空に逃れた。上空に移動したベジータは、初めて敵の存在に気付き、エネルギー波を放ったレックに対して激しい憤りを感じた。
「あの人形野郎!俺はともかく、ブラまで殺そうとしやがったな!ぶっ殺す!」
ベジータは自分が攻撃された事よりも、ブラに危害が加えられそうになった事に対して憤慨した。ベジータは用心のためにブラを上空に残すと、自分一人だけで地上に降り立った。そして、出会ったばかりのレックを、まるで不倶戴天の敵を見ているかの様に激しく睨んだ。
「ようやく戦う気になったか。改めて自己紹介しておこう。俺は・・・」
「ガラクタ人形の名など、どうでも良い!よくもブラまで殺そうとしたな!粉々にしてやる!」
ベジータは現在抱えている怒りを、全て戦いで発散させようとしていた。そんなベジータを、ブラは上空から心配そうな面持ちで見つめていた。
「パパったら、あんな状態で戦って、本当に勝てるのかしら?それにしても、あの敵は何で服を着てないの?気持ち悪い」
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