其の三十五 一対六

激怒しているベジータと、パンツ男レックの戦いが始まった。まずはベジータが突進し、激しい殴打を何度も浴びせた。レックは攻撃を受け続け、ベジータが繰り出した回し蹴りを側頭部に喰らうと、何と頭部が胴体から離れた。ベジータの圧倒的な勝利に、観戦していたブラは歓喜の声を上げた。しかし、ベジータは憮然とした表情で、その場に立ち尽くしていた。

「何がスパイン師団だ。こんな雑魚を一人倒した程度では、俺の気は晴れない。残りの二人も俺が倒してやる」

ベジータはブラを連れ、宇宙船が保管してある場所まで飛んで行こうとしたが、その前にレックと共に来たスパインボーグを見ると、自分のボスが倒されたにも拘わらず、焦りの色が見られなかった。

「何故、奴は平然としているんだ?そう言えば、あのガラクタ人形の首を吹っ飛ばした時、余り歯応えが無かった。もしや!?」

不吉な予感がしたベジータは、地面に倒れている首の無いレックに向けて、小さな気功波を放った。しかし、レックの死体が立ち上がって気功波を避けた。何とレックは、死んでいなかった。立ち上がったレックは、転がっていた頭部を拾って、首との付け根に付着させた。するとレックは、何事も無かったかのように話し始めた。

「俺が死んでないと、よく見抜いたな」
「首が吹っ飛んだ割には、蹴った時に大した感触が無かったからな。俺の蹴りが当たる前に、わざと首を胴体から離したな?」
「そうだ。わざとやられた振りをして、お前が勝利に浮かれる隙を狙っていた」

ドクター・スパインによる改造手術を受けたレックは、頭部と胴体が離れても死なない体となっていた。レックは、その特性を活かして頭部を離して死んだ振りをし、ベジータが油断する時を狙っていた。しかし、ベジータは即座に異変に気付いたので、その作戦は失敗に終わった。

「取り外せるのが首だけとは思えん。他のパーツも取り外せると思うが・・・」
「そこまで見通しているか。こいつは思った以上に厄介な奴だな」

レックが再び首を取り外すと、首は宙に浮いた。次に左右の手で、左手は右の、右手は左の腕の付け根の辺りを握って引っ張ると、両腕が簡単に取れた。胴体から離れた左右の腕は空中に浮かび、その二本の腕が今度は左右の太ももを掴んで下の方角に引っ張ると、両足までもが取れた。足が無い胴体も他のパーツと同様に宙に浮かんでいた。そして、レックの首・胴体・両腕・両足が、同時にベジータに向かって飛んできた。しかし、ベジータは鼻で笑っていた。

「体の各パーツがバラバラになろうとも、それ等を動かしている頭さえ片付ければ終わりだ」

ベジータは個々の攻撃を躱しつつ、レックの頭部を殴り飛ばした。レックの体の各パーツがバラバラに動く原理は、頭部が超能力を使って遠隔操作していると踏んだベジータは、頭部を狙った。しかし、レックの体の各パーツの動きは止まらず、ベジータに一斉に攻撃してきた。

「ちっ。一体どうなってやがるんだ?今は頭が各パーツを動かしてはいないはずだ。ならば胴体が動かしているのか?」

ベジータは攻撃を躱しつつ、今度はレックの胴体を蹴飛ばした。ところが、レックの両腕両足は尚も襲撃してきた。しかも、それぞれ別方角から襲い掛かってきたので、さしものベジータでも避けきれなかった。そして、レックの左手はベジータの首を握り締め、右手がベジータの腹部を殴り、左足がベジータの腰を蹴り、右足がベジータの顎を蹴り上げた。

レックの両手両足が、何処から指示されて動いているかは判明しないが、一箇所から指示されているのなら、動きが統一されているはずである。しかし、レックの手足の動きには統一性が無く、それぞれ独自の動きをしていた。つまり頭部からも胴体からも指示されて動いている訳ではなかった。その証拠に、頭部と胴体は倒れたままだった。ベジータは訳が分からず、当惑していた。

ベジータは自分の首を締めていた、レックの左手を力ずくで引き剥がした。しかし、レックの手足による攻撃は、ますます激しくなり、ベジータは次第に防戦一方となった。ベジータは身を固めながらも、レックの手足が何処から指示されて動いているのかを考えた。わざわざレックの体の指示系統の謎を解明せずとも、体の全パーツを消滅させれば、それでベジータの勝利となるが、誇り高い彼は、絶対に謎を解いてから倒すと心に決めていた。

相変わらずレックの腕や足は、それぞれ独自の動きで飛び回っており、何処から指示されて動いているのか判明しなかった。しかし、ベジータは防御しながら、考えられる選択肢を一つずつ排除していった。

「両腕両足合わせて四本が、個々に違った動きを同時にするならば、一箇所から指示されて動いているのではない。仮に倒れたままの頭部と胴体の二箇所から指示されているとしても、動きは二種類に限定されるはずだ。一体どうなって・・・待てよ。奴は生身の人間ではなく、ガラクタ人形だ。・・・そうか!分かったぞ!」

ベジータは、わざと無防備な体勢になると、レックの両手が、それぞれベジータの手首を握って動きを封じた。次に、レックの両足が交互にベジータの鳩尾を蹴り続けた。その間に、レックの頭部と胴体が起き上がった。

「さっきは、よくもやってくれたな。たっぷりお返ししてやるぞ」
「待っていたぞ。頭が目を覚ますのをな。手足とでは会話が出来ないからな」
「何だ?命乞いか?我が軍への入隊希望なら、助けてやっても良いが・・・」
「俺が話したいのは、お前の体の秘密だ。お前の体の各パーツが、それぞれ個別に動けるのは、各パーツに人工知能が埋め込まれており、その人工知能が独自に指示を出しているからだ」

レックの表情から笑みが消えた。その様相だけで、ベジータは自分の推理が正しかったと確信した。ベジータの指摘通り、レックには元々の脳みそとは別に、胴体と両手両足に人工知能が埋め込まれていた。そうする事で、レックの体の各パーツは、それぞれ意思を持って行動する事が可能となった。別の表現をすれば、レックの体は六つの人格を有していた。だから頭部が眠っていても、手足が自由に動けた。

「俺の体の秘密を見抜いた奴は、お前が初めてだ。しかし、分かった所で、この状況はどうしようもあるまい」
「ふん。分かった以上は、お前に用は無い。手加減は無用だ。一気に片付けてやる」

ベジータは超サイヤ人となり、自分の手足を拘束していたレックの両手を吹っ飛ばした。そして、目にも止まらぬスピードで気功波を連続して放ち、レックの胴体や両手両足を瞬く間に消滅させた。

「あううう・・・。俺の体が・・・。そんな馬鹿な・・・」
「悪いな。貴様の体の秘密を解明するまで手加減していたんだ。やはり貴様は俺の敵ではなかった。残るは頭だけだ。最後に念仏でも唱えるんだな」

ベジータの驚異的な力に、レックの頭部は恐怖した。そして、ベジータが止めを刺そうとした丁度その時、レックと共に来たスパインボーグが、戦いを観戦していたブラを取り押え、ベジータに向けて叫んでいた。

「そこまでだ!この娘の命が惜しければ、俺の言う通りにしろ!」

大事なブラが敵の手に渡ったので、ベジータは振り上げた拳を下ろした。

「ふははは・・・。形勢逆転だな。あの娘を人質に取られては、もう手出し出来まい。よくも俺の体を消してくれたな。まあいい。お前を殺した後、お前の体を俺の新たな体に改造してもらうとするか」

勝ち誇るレックの頭部とスパインボーグだが、ベジータは悲観していなかった。

「とことん馬鹿な奴等だ。ブラは誇り高いサイヤ人の王子ベジータの娘だ。何時でも死ぬ覚悟は出来ている」
「何?出鱈目を言うんじゃない」
「出鱈目かどうか、今見せてやる」

そう言うと、ベジータはブラに向けて気功波を放った。気功波は、ゆっくりブラに向かって進んでいった。スパインボーグは巻き添えを恐れ、ブラを解放して離れた。すると気功波は急に向きを変え、スパインボーグに猛スピードで迫り、スパインボーグは避ける間も無く消し飛んだ。更に返す刀で、気功波はレックの頭部にも迫って粉々に破壊した。こうしてレックの全身は、余す所無く消滅した。

戦いを終えたベジータは、変身を解いてブラの元に向かった。

「もう!今のは本気で私を殺そうとしたんじゃないかと思ったわよ!」
「怖い思いをさせて済まなかったな。ところで、お前のボーイフレンドの件だが、先程は言い過ぎた。お前が気に入った男なら、それなりに見所がある奴だろう。だから・・・」
「まだ信じてたの?ボーイフレンドなんて嘘よ。よく告白されるけど、軟弱な男ばかりだから全て断ってるわ。もし付き合うなら、パパみたいに強くて格好良い人が良いな」

ブラの言葉に、ベジータは柄にもなく赤面した。

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