ベジータやピッコロ・ウーブ組と同様に、悟空もスパイン師団の一人を倒すため、義理の娘ビーデルが操縦する宇宙船に乗り、地球から何十億光年も離れた銀河にある星を訪れた。悟空達が下船すると、そこは気候が穏やかな風土で、二人は地球に舞い戻ったかのような不思議な感触を得た。しかし、彼等に浮かれている余裕は無かった。これから敵と戦うからであるが、それだけが理由ではなかった。
「スパイン師団って奴等は気がねえそうだから、あちこち飛び回って探すか、この場に留まって向こうの方から来るのを待つか決めねえとな。ビーデルは、どっちが良いと思う?」
「・・・あの、お義父さん。こんな時に言うのも何ですけど・・・。お義母さんの事ですが・・・」
「チチか?チチがどうかしたのか?」
惑星ジニアに向けて出発した日から、悟空は一日の大半を修行か宇宙旅行に費やし、家庭を顧みなかった。一方、悟飯や悟天と離れ離れになったチチは、火が消えたように元気が無くなり、度々病で寝込むようになっていた。その事を悟空は懸念していたが、悟飯を助け出せば全て元通りになると自らに言い聞かせ、チチの事はビーデルに全て任せていた。そのビーデルからチチの件で話があると言われれば、耳を傾けない訳にはいかなかった。
「以前に比べれば少しだけ元気になりましたけど、口数は減りました。口には出さないけど、やはり寂しいんじゃないかと思います。息子二人を同時に失う形になったから・・・」
「そうだな。だから一日でも早く悟飯を救い出すため、オラ達は戦ってるんだ」
「ええ。ですが、救出まで時間は掛かると思います。だからせめて悟天君を地球に戻す事は出来ないのでしょうか?」
悟天は悟空と仲違いして以降、一度も地球に帰っておらず、連絡一つ寄越さなかった。
「悟天か・・・。まだオラの事を恨んでいるんだろうか?それとも悟天自身は帰りたくても、レードが帰さないのだろうか?個人的にも悟天には帰って来てもらいたいし、強大な力を持つジニア人に対抗する為には、一人でも多くの強い仲間が必要だ。だけど、どうすれば悟天を地球に帰せるのか分らねえんだ」
悟空は苦しい胸の内を吐露した。悟空が弱音を吐く姿など、ビーデルは今まで見た事がなかった。自分の子供と離れ離れになった悲しみは、悟空にだってある。しかし、落ち込んでる姿を人には見せられなかった。今回はビーデル一人しか居なかったからこそ、こうして悟空も本音を語れたのである。
「御免なさい。お義父さん達が必死に頑張っているのに、余計な事を言ってしまって・・・」
「いや、良いんだ。思ってる事が言えて、少し気分が楽になった。トランクスとパンが、ドクター・スパインって奴から惑星ジニアの場所を上手く聞き出せれば、今日中にも惑星ジニアに乗り込み、悟飯を助けられるかもしれねえ。そうしたら悟天は機嫌を直して地球に帰ってくるだろうし、チチだって以前のように口喧しくなるだろう。さあ、気を取り直して、敵を探しに行こうぜ」
悟空はビーデルを連れて、スパイン師団を探しに行こうとした。ところが、遠くの空から見知らぬ戦士の軍団が、こちらに向かって飛んで来るのが見えた。戦士達は軍服を着ており、誰からも気を感じられなかった。
「あれは!?飛んでるのに気を感じねえから、スパインボーグとやらに間違いなさそうだ。丁度良い。この星に居るスパイン師団の居場所を聞き出してやる」
ビーデルを少し離れた場所に避難させてから、悟空が地上で待ち構えていると、スパインボーグ達が悟空の目の前で降り立った。ところが、先頭に立っていたのは、身長が一メートル位しかない小男だった。その小男が悟空に面と向かって話し掛けてきた。
「何者かは知らないが、この俺が管理する星に足を踏み入れた以上、黙って帰す訳にはいかない。この俺に従うか、あるいは死を選ぶか決めろ」
「もう一つ選択肢がある。オラ達を、スパイン師団の居る所まで案内してもらう事だ」
「俺に用があって来たのか?大方、俺を倒しに来たんだろう。命が惜しくないと見えるな」
「へ!?ひょっとして、おめえみてえな小せえ奴が、スパイン師団なのか?」
悟空は仰天した。こんな小さな男が、まさかスパイン師団の一人だとは思っていなかったからである。
「小さくて悪かったな。こう見えても俺は、スパイン師団最強の軍人デルトイド様だ。お前に俺と戦う資格があるかどうか、まずは手下共で試すとしよう」
デルトイドが合図を送ると、彼の背後に控えていたスパインボーグ達が、一斉に悟空に襲い掛かってきた。しかし、悟空は瞬く間に彼等を一蹴した。
「ほ、ほう。少しは出来るようだな」
「まあな。あいつ等だけじゃ物足りねえから、おめえも来いよ。スパイン師団の中で一番強いんだろ?少しは期待してるぜ」
「い、良いだろう。すぐに後悔させてやる」
デルトイドは正面から悟空に飛び掛かってきた。ところが、デルトイドが放ったパンチは、悟空の左手の平で容易く受け止められた。そして、悟空の右のパンチで、デルトイドは後方の岩山まで吹っ飛ばされた。岩山に衝突したデルトイドは、そのまま地面に落下した。最強と言ってた割には、余りにも歯応えが無かったので、悟空は拍子抜けしていた。
「あり?ひょっとして、もう終わりか?スパイン師団の実力って、この程度だったのか?ウーブの話と随分違うな。あいつ、スパイン師団の中で最強とか言ってたけど、実は最弱だったんじゃねえのか?もしかしたら手下共の方が強かったかも・・・」
悟空は全力とは程遠い力で殴ったのだが、予想に反してデルトイドは勢いよく吹っ飛んだ。しかし、デルトイドは起き上がり、再度悟空に戦いを挑んできた。ところが、今度も悟空の蹴り一発で、デルトイドは遠くまで吹っ飛ばされた。
「変な奴だな。大した実力じゃないくせに、オラの攻撃を一回喰らって、よく起き上がれたな。でも、それも終わりだろう。さあ、ビーデル。帰ろうぜ」
悟空はビーデルと共に乗ってきた宇宙船で、地球に帰ろうとした。しかし、デルトイドは再び起き上がり、三度攻めて来たが、やはり悟空に吹っ飛ばされた。ところが、またしてもデルトイドは起き上がった。
「どうなってるんだ?オラの攻撃が効いてねえのか?それに、起き上がる度に奴のスピードが増してる気がする。体も大きくなってるように見える。もしかしたら・・・」
起き上がったデルトイドは、悟空に殴り掛かってきたので、悟空は左手の平で受け止めた。避けようと思えば避けられたのだが、悟空には確かめたい事があった。
「やっぱりだ。さっきよりもパンチの威力が増している」
悟空は手の平でデルトイドのパンチを受け止める事で、デルトイドの現在のパンチ力と、先程のパンチ力とを比較した。そして、デルトイドが先程に比べて強くなっている事を悟った。しかも、悟空は毎回ほぼ同じ力で攻撃していたが、デルトイドが倒されたから立ち上がるまでの時間が、少しずつ短くなっていた。つまりデルトイドは、スピードや身長や力に加えて、耐久力まで上昇していた。更に問題なのは、デルトイドの体は、ダメージを全く残していなかった。
デルトイドは片方の手を悟空に押さえられていたので、もう片方の手でパンチを出したが、そのパンチが悟空の体に当たる前に、悟空に蹴飛ばされた。今度は更に力を込めて蹴ったが、やはりデルトイドは何事も無かったかのように立ち上がった。流石の悟空も、この不思議な敵を不気味に感じるようになっていた。
この戦いを観戦していたビーデルは、戦っている二人のスピードを目で追う事は出来なかったが、悟空が一方的に攻撃しているにも拘わらず、デルトイドが何度も立ち上がっている事は理解出来た。そして、この戦いを通じて、ビーデルの頭の中には過去の嫌な記憶が甦っていた。
「似ている。私が以前に戦ったスポポビッチと・・・」
ビーデルは過去に出場した天下一武道会で、バビディに操られて異常な力を得たスポポビッチと対戦し、序盤は圧倒的に有利に戦っていたが、スポポビッチは何度倒しても起き上がり、逆にビーデルの体力が尽きて逆転負けしてしまった苦い経験があった。ビーデルは、その時の戦いと今の戦いが重なって見えた。
「もしかしてだけど、お義父さんが負けるかもしれない・・・」
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