悟空対デルトイドの戦いは、悟空が圧倒的な力の差で優勢に戦っていたが、デルトイドが何度倒されても平然と立ち上がり、しかも立ち上がる度に強くなっていたので、悟空は少しも勝っている気がしなかった。また、デルトイドの力が増す毎に体が大きくなっており、今では悟空の背丈に匹敵する程に身長が伸びていた。
このままの調子で戦えば、いずれデルトイドのパワーが自分のを追い越すかもしれないと危惧した悟空は、戦法を変える事にした。まず現在のデルトイドと同レベルにまで力を落とし、無闇に倒さないようにした。また、デルトイドを拳を交えながら観察し、彼の思考を探る事にした。
観察してから気付いた事だが、デルトイドは攻撃に専念し、防御も回避もしなかった。自分が攻撃を受ける事に躊躇わないからこそ出来た芸当だが、これは悟空が以前に戦ったジフーミの戦い方と酷似していた。そこから連想すると、デルトイドがジフーミ同様に再生能力を有している可能性があった。そこで悟空は、デルトイドの左耳を高速で削ぎ落とした。すると千切れた箇所から新たな耳が生えてきた。悟空の予想が的中したが、ジフーミほど速く再生されてはいなかった。
再生能力がある敵へのパンチやキックといった直接攻撃は無意味なので、悟空は距離を置いてかめはめ波を放った。現在のデルトイドの力量では、命中すれば消滅する威力で、しかも彼のスピードでは回避出来ないよう調整して放った。ところが、かめはめ波が当たる前に、デルトイドの身長が一気に一メートル以上も伸び、高スピードでかめはめ波を避けた。更にデルトイドは、かめはめ波を放ったばかりの悟空に襲い掛かり、一撃を見舞った。
悟空は殴られつつも、現在のデルトイドは開戦直後と比べて百倍以上も強くなっていると肌で感じ取った。悟空は殴られた頬を手の平で摩りながら、今までとは逆に、デルトイドを見上げながら話し掛けた。
「これまでは攻撃を喰らって倒れ、立ち上がる度に強くなっていったから、攻撃を受けないとパワーアップしないと思っていたけど、実際は自分の意思で自由に強さを調整出来るようだな」
「そうだ。最初から力を目一杯上げて戦うと、あっさり勝ってしまうから面白くない。それに、大き過ぎる体は何かと不便だしな。そこで俺は、少しずつ力を上げて戦うようにしている。その方が体の大きさや強さに徐々に慣れていくからだ」
デルトイドは攻撃を受けて倒れないと強くなれないのではなく、自分の意思で強さを自由に調整出来た。これまでは、それを隠してきたデルトイドだったが、かめはめ波による消滅を回避する為、自分の秘密を悟空に知られるのを承知の上で、スピードを含めた身体能力を上昇させ、かめはめ波を避けた。
もしデルトイドが自分の意志で自由に強くなれなかったら、悟空は力を開放して一気に勝負を決める事が出来た。しかし、デルトイドが思い通りに強くなれる事が判明したので、悟空はどれ位の力で対抗すれば良いか判断が難しくなった。とりあえず悟空は、新たな対策を練る為に会話を続ける事にした。
「ドクター・スパインって奴は、とんでもねえ天才だな。再生能力や強さを自由に変えられる機能を作ったんだからよ。流石は宇宙一の知的民族ジニア人って所か」
「勘違いするなよ。再生能力はサイボーグになって与えられたものだが、能力調整は俺の固有技だ。ただし、改造される前は体への負担が大きい為、大幅に強くなれなかった。しかし、今では再生能力を得て負荷を回復出来るようになったので、無限に強くなれる」
デルトイドは声まで大きくなっていたので、離れた所に居たビーデルでも話を聞く事が出来た。そして、ビーデルは青褪めていた。幾ら悟空が強くても、その力には限度がある。デルトイドが無限に強くなれるなら、悟空の最大パワーを上回る事だって可能なはずである。もし悟空が敗れれば、次にデルトイドは、別の星に遠征中の他の仲間の命だって狙うだろう。そして、仲間達が全滅の憂き目に遭えば、悟飯を助けるなど夢物語に終わる。ビーデルは悲しくなってきた。
しかし、ビーデルとは対照的に、当の戦っている悟空は、全く気落ちしていなかった。むしろ戦いを楽しんでいる風だった。
「そうか・・・。じゃあ、おめえが本当に無限に強くなれるのか試してやろう」
悟空は超サイヤ人となり、改めてデルトイドに戦いを挑んだ。これまで力を抑えて様子見していた悟空だったが、一転して力を解放した。悟空の急激な変化に、デルトイドは当初戸惑ったが、すぐに冷静になった。
「ふん。お前がどう変わろうと、どれだけ強くなろうと、無限に強くなれる俺を超える事は出来ん。無駄な足搔きだ」
悟空とデルトイドの戦いが再開された。悟空は効かないと分かっているのに、何故かパンチやキックによる直接攻撃で戦い、デルトイドは喜んで応戦した。直接攻撃なら再生能力を持つ自分が敗れる心配はないし、劣勢になれば、また力を上昇させれば済むからである。デルトイドは早くも己の勝利を確信していた。しかし、デルトイドが勝利を確信して油断した隙に、悟空に顔面を蹴られて尻餅を付いた。
「ほらほらどうした!?もっと大きくならねえと、オラに勝てねえぞ!」
「くっ、生意気な奴め!そんなに死にたいなら、望み通りにしてくれるわ!」
立ち上がったデルトイドは、悟空の力を超える為に、更に大きくなった。そして、気を取り直して対戦を続行すると、今度は悟空の方が押され気味になったので、悟空は超サイヤ人2に変身した。デルトイドの強さの上昇に合わせて悟空は変身して対抗する戦い方に、ビーデルは疑問視していた。
「お義父さんは、一体どういうつもりなのかしら?勝てないと悟って自暴自棄になっているとは思えないけど、このままの調子で戦い続ければ、あいつがお義父さんの最大パワーを上回るか、お義父さんの体力が尽きて、結果として負けてしまうわ。その事に、お義父さんが気付いてないとは思えないけど・・・」
ビーデルの心配も空しく、悟空は戦法を変えずに戦い続けていた。デルトイドは再度劣勢になったので、もう一段階大きくなった。デルトイドが大きくなると、今度は悟空が超サイヤ人3に変身した。自分が不利となるのが明白なはずの力のシーソーゲームを、何故か悟空は続行していた。
悟空が余りにも強いので、デルトイドは更に更に大きくなり、とうとう体長は千メートルに達した。デルトイドは、こんなに強い相手と過去に対戦した事が無かったので、ここまで巨人になったのは、生まれて初めてだった。デルトイドに対抗する為、悟空も遂に超サイヤ人4にまでなった。
「驚いたぜ。まさかここまで大きくなれるとはな。更に大きくなられたら、流石に不味いかもな」
「くっくっくっ・・・。これ以上は大きくなれないとでも思ったのか?馬鹿め!見るがいい!そして、絶望しろ!」
悟空の言葉に乗せられ、デルトイドは更に巨大化した。ところが、ここで異変が起こった。大きくなった瞬間、デルトイドは急に苦しみ始めたのである。これまでは拡大しても、悟空に幾度も攻撃されても平然としていたデルトイドだったが、何故か今は苦しんでいた。悟空は待ってましたとばかりに微笑んだが、ビーデルは唖然としていた。
「ぐあああ・・・!苦しい!俺の体に何が起きたんだ!?」
「ふう。この時を、ずっと待っていたぞ。思ったよりも長く持ち堪えたな。でも、それも終わりだ」
デルトイドが大きな体でのた打ち回るので、悟空はビーデルと乗ってきた宇宙船を抱えて、上空に逃れた。デルトイドの突然の異変の理由が分からないビーデルは、悟空に尋ねた。
「お義父さん。あいつは、どうしたんですか?お義父さんが何かしたんですか?」
「いいや。俺は、何もしていない。それよりも、ここから離れるぞ。あいつが爆発するから」
悟空が飛び去ると、後方から爆発音が鳴り響いた。悟空の指摘通り、デルトイドが爆発した。その後、悟空は適当な場所を選んで地上に降り立ち、抱えていたビーデルを降ろした。しかし、ビーデルは安心するよりも、疑問で首を傾げていた。あれだけパワーアップを続けていたデルトイドが、何故いきなり爆発したのか、どうしても分からなかったからである。
「お義父さんが何もしていないなら、何であいつは爆発したんですか?」
いずれデルトイドが苦しむ事も、更には爆発する事まで、悟空は事前に見抜いていた。その慧眼に、ビーデルは舌を巻いていた。そして、戦いが終わって一段落ついた所で、ビーデルは改めて質問した。
「体への負担が大き過ぎて、再生能力でも補えなくなったんだ。俺にも似たような技があるから分かるが、力を倍増すればするほど、体への負担は大きくなる。あいつは再生能力があれば、無限に強くなれると思ったんだろうが、そんなに甘くはない。体に掛かる負荷のスピードが、再生するスピードを上回ると、上がり過ぎた力を体が支えられなくなり、コントロール出来なくなる。そして、行き場を失った力が暴走し、自滅へと繋がったんだ」
悟空は界王拳を通して、力を倍増させる技の危険性を知っていた。また、体の許容範囲を越える力を体内に溜めると爆発する事を、過去のヤコン戦で知っていた。だから悟空は、デルトイドの自滅を予想出来たのである。しかし、ビーデルの疑問は解消されていなかった。
「お義父さんの限界が来る前に、あいつの限界が来たから良かったですけど、もし超サイヤ人4以上に強くなれたら、お義父さんは、どうするつもりだったんですか?」
「さあな。でも、そうなった方が面白かったかもな」
悟空は不敵に笑った。
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