其の四十 仇敵登場

悟空達が分散してスパイン師団の各個撃破に向かったのと同時刻に、トランクスとパンは、ドクター・スパインが居ると言われた星に向けて出発した。悟空達がドクター・スパインの頼みの綱であるスパイン師団と戦うのは、彼等を足止めし、その間にドクター・スパインを捕らえる為であったから、トランクス達の働き次第で今回の作戦の成否が決まる。それだけにトランクス達に圧し掛かる責任は、他の者達より大きかった。

トランクス達を乗せた宇宙船が星に到着すると、そこは荒涼とした大地で、人の気配は愚か、草木すら生えていなかった。トランクスとパン、そして宇宙船を操縦していたクリリンは、下船して何も無い風景を呆然と見つめていた。

「殺風景な所ね。こんな星に本当にドクター・スパインとかいうのが居るのかな?とりあえず手分けして探しましょ」
「待って、パンちゃん。ここは敵の本拠地だ。しかも敵には、気を持たないサイボーグが居る。予期せぬ場所から襲撃を受けるかもしれない。ここは三人一緒になって探した方が良い」

ドクター・スパインの周囲に、彼の護衛が居ないとは考え難い。主力であるスパイン師団は居なくても、それに準ずる強さを持ったスパインボーグ、所謂サイボーグが居ると考えるのが妥当である。トランクスでも勝てるかは分からない。ましてやパンやクリリンでは、彼等と遭遇すれば、逃げ切れずに殺されるかもしれない。二人が自分の側に居てくれれば、トランクスにとっては安心だった。

「いや、トランクス。グズグズしてたら、ドクター・スパインに逃げられるかもしれないぞ。それに俺やパンだって、そう簡単にはやられない。もし誰かの所に敵が現れても、そいつが気を全開にすれば、他の二人は気付いて救援に向かえる。ここは別れて探すべきだ」

ドクター・スパインに逃げられる前に捕獲する為には、こちらは多少の危険を冒してでも個別に別れて捜索し、一刻も早く彼を見つけるべきだというのがクリリンの主張だった。パンがこれに賛同した為、二対一でクリリンの意見が通り、三人は別れてドクター・スパインを探す事になった。そして、もし三人の内の誰か一人の元に敵が現れるか、ドクター・スパインの居場所が判明したら、即座に気を解放して他の二人へ合図を送る事で話は決まった。

こうして三人は一旦別れ、個別に探す事になったのだが、彼等のこうした動きは、星の内外を監視している人工衛星を通して、ドクター・スパイン側に筒抜けとなっていた。

トランクス達の居る所から程遠い場所に存在する工場では、ドクター・スパインが彼の協力者達と共に、サイボーグ造りに没頭していた。そんな折、得体の知れない侵入者の来訪を告げる報告を、ドクター・スパインが受けた。ドクター・スパインは、彼の趣味とも言えるサイボーグ造りを邪魔されて、苛立ちながら応えた。

「何?三人の侵入者だと?それだったら手の空いてるスパインボーグ達に、適当に始末するよう伝えれば良いだろうが!一々そんな事を俺に報告しなくても、お前達で対処しろ!」

ドクター・スパインは細身の長身で、他のジニア人同様に白衣を着用していた。彼はサイボーグ造りに熱中する余り、大半の仕事を他人に任せていた。研究熱心と言えば聞こえは良いが、悪く言えば、サイボーグ造りにしか興味がないオタクだった。だからこそ肝心の侵略計画は、スパイン師団に一任されていた。

早速、工場からスパインボーグ達がトランクス達三人に向けて飛び立った。トランクスの所に来たスパインボーグ達は、トランクスが苦も無く一蹴したが、クリリンやパンにとってスパインボーグは強敵だったので、苦戦を余儀無くされた。二人の気の動きから、二人の元にもスパインボーグが来ていると悟ったトランクスは、まずパンの救援に向かった。

パンは超サイヤ人となって応戦していたが、スパインボーグの方が力は強く、苦しい展開だった。しかし、トランクスが急いで駆けつけ、スパインボーグ達を瞬く間に全滅させた。パンが助かると、二人はクリリンの元に向かった。クリリンは太陽拳でスパインボーグの動きを封じ、その間に駆けつけたトランクスがスパインボーグ達を倒し、クリリンも危機を脱した。

結果だけを見れば、パンもクリリンも大した怪我を負わずに無事だったが、トランクスの救援が遅れていれば、二人とも間違いなく助からなかった。トランクスはそれを踏まえ、もう一度持論を主張した。

「やっぱりバラバラに動き回るのは危険ですよ。ここは時間を掛けてでも、三人一緒になって行動した方が安全です」
「そ、そうだな。お前の言う通りだ。平和に慣れすぎたせいか、危機意識が欠けていた」
「私も少し甘く見過ぎてたわ。これからは一緒にドクター・スパインを探しましょ」

スパインボーグ全滅の報は、直ちにドクター・スパインに知らされた。ようやくドクター・スパインは、トランクス達が只の侵入者ではないと気付き、慌てふためいていた。

「ええい!こうなったら西地区担当のネータに連絡し、すぐに救援に駆けつけるよう伝えろ!」

ドクター・スパインは、ネータにトランクス達を倒させる腹積もりだった。しかし、命を受けた協力者が通信機を使って何度も連絡を試みても、先方からの応答は無かった。その間に、トランクス達はスパインボーグ達が来た方角を辿り、ドクター・スパインの居る工場に向かっていた。

「ネータと連絡が取れないだと!?ならば南地区担当のレックでも、東地区担当のグラッシーでも、北地区担当のデルトイドでも構わん!大至急ここに来るように伝えろ!」

ドクター・スパインは協力者達に、別の星に居るスパイン師団に連絡を取るよう指示した。しかし、スパイン師団からは誰一人として応答が無かった。

「な、何故だ!?何故あいつ等からの応答が無いんだ!?・・・かくなる上は、惑星ジニアに助けを求めるしかない!」

ドクター・スパインは自ら通信機を操作し、惑星ジニアへの連絡を試みた。ところが、惑星ジニアからの第一声の応答が返って来た瞬間、部屋の出入り口から気功波が飛んできて、通信機が粉々に破壊された。気功波を放ったのはパンで、パンの背後にはトランクスとクリリンが立っていた。

「あなたがドクター・スパインね。何処かへ救援要請していたみたいだけど、そうはさせないわ。これ以上、面倒になるのは御免だしね」

ドクター・スパイン達が連絡に専念している間に、トランクス達は工場を発見し、ドクター・スパインが居る部屋まで侵入していた。トランクス達の行動が速過ぎたせいもあるが、ドクター・スパイン達は、彼等の動きを逐次確認するのを怠っていた。

「観念しろ!ドクター・スパイン!ご自慢のスパイン師団も、今頃は俺の仲間達に倒されているだろう」
「な、なんだと!?で、では、スパイン師団と連絡が繋がらなかったのは、お前の仲間とやらが彼等を倒したからなのか!?」

ドクター・スパインは、トランクスの言葉を否定したかったが、現にスパイン師団とは連絡が繋がらなかった。また、トランクスの余りの強さを考慮すると、仲間も相当な実力の持ち主だと予想された。その為、彼の言葉を嘘だとは言い切れなかった。

「くっ、最早ここまで!」

ドクター・スパインは、ポケットの中にある自爆装置を起動させて工場を爆破し、工場もろとも死のうと試みた。しかし、逸早くクリリンがドクター・スパインを取り押え、身動きを封じた。三人はドクター・スパインを連行し、工場の外に出た。すぐ側に居た協力者達は、誰一人として抵抗しようともせず、四人を静かに見送っていた。

工場の外に移動したトランクス達は、ドクター・スパインを取り囲んで尋問を始めた。

「建物の外に出れば、自爆も出来まい。さあ!惑星ジニアの場所を白状してもらおうか!知らないとは言わせないぞ!ジニア人なら惑星ジニアの場所を知っている事ぐらい、分かっているんだ!」
「さっさと言いなさい!あなたに個人的な恨みは無いから、素直に言ってくれれば、無事に解放してあげるわよ。もし言わないと、あなたの身柄を私達の怖ーい仲間に引き渡すわよ。そうなると、とっても酷い目に遭うわよ」

悟空達の目的は、悟飯を助け出し、ジニア人の野望を打ち砕く事であり、ジニア人を一人残らず抹殺する事ではなかった。しかし、ドクター・スパインは答えるのを躊躇していた。ジニア人にとって他人に惑星ジニアの場所を言う事は、一族に対する重大な背信行為であり、判明すれば死刑に該当した。だからこそ答えられないのだが、この先も何も言わなかったら、いずれにしろ殺されるだろう。そう考えたドクター・スパインは、生き延びる可能性が高い方を選ぶ事にした。

「わ、分かった。惑星ジニアの場所を話す。その前に一つ約束してくれ。お前達が惑星ジニアに行っても、そこに居る誰かに、俺が星の場所を教えたとは絶対に言わないでくれ」
「良いだろう。俺達は約束を守る。お前の名前は、口が裂けても言わないから安心しろ」

ドクター・スパインは、トランクス達の実力を認めても、彼等が惑星ジニアを攻め滅ぼせるとは考えていなかった。ただし、彼等がどうやって惑星ジニアの場所を知ったのかが、後で必ず問題となる。彼等さえ黙っていれば、どういう状況になろうとも、自分だけは助かるとドクター・スパインは考えていた。

「で、では言うぞ。惑星ジニアの場所は・・・」

ドクター・スパインが惑星ジニアの場所を言おうとした瞬間、何処からともなく光弾が飛来し、ドクター・スパインの脳天を貫いた。ドクター・スパインは即死し、その場に倒れた。トランクス達が驚いて光弾が飛んで来た方角を見ると、そこに一人の男が立っていた。そして、その男にトランクスとパンは見覚えがあった。

「な、何で貴様がここに!?」

そこに立っていたのは、かつて悟飯を痛めつけ、惑星ジニアまで連れ去った憎き敵ハートボーグ五十七号であった。

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