其の四十一 縮まった差

突然、目の前に現れた憎き敵であるハートボーグ五十七号の姿を久し振りに見た時、トランクスとパンは最初こそ驚いたが、やがて沸々と怒りが込み上げてきた。トランクス達二人は、怒りに体が震え、目は血走り、歯軋りまでしていた。五十七号を見た事がないクリリンは、二人の態度が豹変した理由が分らなかったので、小声で尋ねた。

「二人とも、一体どうしたんだ?こいつの事を知ってるのか?」
「クリリンさん。こいつはハートボーグ五十七号です」
「げげっ!ハートボーグ五十七号と言えば、あの悟飯が手も足も出なかったサイボーグの事か!?ひえー!」

前回の戦いに参加していなかったクリリンでも、ハートボーグ五十七号の名前ぐらいは聞いた事があった。しかし、クリリンは怒りよりも絶望感を味わっていた。幾らトランクスが以前に比べて強くなったとはいえ、悟飯ですら勝てなかった強敵に勝てるとは思えない。自分とパンを含めた三人で協力して戦っても、結果は変わりそうにない。クリリンは、自分達の不運を呪った。

ところが、トランクス達とは対照的に、五十七号は、彼等の事を覚えていなかった。

「お前達は、俺を見知ってるのか?妙だな?この銀河に来たのは今日が初めてだが・・・」
「貴様は覚えていないかもしれないが、俺は貴様が悟飯さんを攫った時、その現場に居たんだ!」

五十七号は、トランクスの顔をじっと見た。そして、すぐに合点が行った。

「ほう。あの孫悟飯の仲間か。そう言えば、あの時に奴の仲間が何人か居たな。その仲間が、この銀河に居るという事は、奴を助け出す為に仲間が惑星ジニアに向かっているかもしれないというドクター・ハートの予想は当たっていた訳か。しかし、惑星ジニアのある方角は分かっていても、詳細な場所までは知らないから、一気にワープ出来ず、地道に進んでいたという事か」

五十七号は、トランクス達が銀河系から何十億光年も離れている星に居る事実から、彼等のこれまでの軌跡を推論した。しかも推論が全て的中しているから、トランクス達は、ぐうの音も出なかった。

「そうなると、やはりドクター・リブを殺したのは、お前達だな?」
「直接、手を下した訳ではない。奴を追い詰めて、惑星ジニアの場所を訊こうとしたら、自ら命を絶ったんだ」
「それでこそジニア人だ。ドクター・スパインも、それを実践すべきだった。そうすれば、俺が殺さないで済んだ」

この場所に五十七号が来た時、絶対に秘密にすべき惑星ジニアの場所を、ドクター・スパインがトランクス達に伝えようとしていた。ジニア人にとって他人に惑星ジニアの場所を教えるのは、絶対に犯してはならない背信行為である。だからこそ五十七号は、急いでドクター・スパインを殺し、彼に厳罰を与えたのと同時に、口封じしたのである。

「それより貴様は、何故この星に居るんだ?今日初めて来たとか言ってたから、この星に滞在していた訳ではなさそうだ。また、俺達が今日、この星に来るのを知らなかったはずだ」
「先程、ドクター・スパインから惑星ジニアに連絡が入ったが、すぐに切れてしまった。こんな事は、普通あり得ない。だからドクター・ハートは、彼の身に何かあったんじゃないかと思い、この星に行って様子を見るよう俺に指図した。来て見たら、案の定だった」

ドクター・ハートは、悟空達が惑星ジニアに向かっているのを薄々勘付いていた。その為、五十七号に命令を下すのも異常に早かった。

「ちっ。お陰で惑星ジニアの場所を後一歩の所で訊きそびれた。しかし、貴様が単独で惑星ジニアから来たという事は、貴様は惑星ジニアの場所を知っているんだな?」
「俺から惑星ジニアの場所を、力尽くで訊き出す気か?身の程知らずめ。お前達は、ミレニアムプロジェクトを妨害し、その所為でジニア人が二人も死んだ。お前達の罪は万死に値するから、これから処刑せねばならない。せいぜい無駄な足搔きでもするんだな」

五十七号の目付きが変わると、パンとクリリンは同時に身構えた。戦っても勝てないのは分っていても、それでも抗わずにいられなかった。しかし、トランクスが二人を制止した。

「五十七号とは俺一人で戦います。二人は下がって下さい」
「で、でもトランクス。私達三人で戦えば、少しは・・・」
「下がるんだ!はっきり言って足手纏いだ!少しでも生き長らえたければ、戦おうとも、逃げようともせず、下がって戦いを観ているんだ!」

普段のトランクスからは想像も出来ない強い口調で、二人を後方へ退かせた。

超サイヤ人4になれるトランクスと、未だ超サイヤ人1にしかなれないパンや、現役引退した地球人のクリリンとでは実力に大きな差がある。三人が共に戦っても、相乗効果を生むどころか、トランクスが二人を守りながら戦わねばならないので、却ってマイナスである。また、トランクスが逃げるなとも指示した理由は、トランクスと交戦中でも五十七号には二人に気を配る余裕があるだろうから、二人が逃げ出せば、すぐに気付いて追跡して殺そうとするからである。

二人が大人しく退いてくれたので、トランクスは、単身で五十七号と対峙した。

「そう言えば、お前の仲間はどうしたんだ?他にも何人か仲間が居たはずだが・・・」
「さあな。惑星ジニアの場所を教えてくれれば、話しても良いがな」
「・・・まあ良い。他にも仲間が居た所で、俺に敵いはしない。むしろ全滅を避けられる分、お前にとっては好都合かもしれんな」

話し合いが済むと、トランクスと五十七号は共に身構えた。トランクスは気を最大限に高め、いきなり超サイヤ人4になった。以前は超ブルーツ波発生装置が無いと変身出来なかったが、今では独力で変身出来るようになっていた。そして、気を限界まで高めたトランクスは、五十七号に飛び掛かった。様子見もせず、最初からフルパワーで戦うのは、本来ならセオリーに反するのだが、格上の相手に手加減している余裕が無かったからである。

トランクスは、次々と攻撃を繰り出したが、五十七号は余裕の表情で攻撃を躱していた。トランクスは、以前より強くなっていたが、まだ五十七号との実力差は大きかった。しかし、トランクスは、単純に攻めているだけではなく、五十七号の動きに合わせながら、変幻自在に攻撃していた。時には正面から迫り、またある時はフェイントを交えたトリッキーな動きで翻弄するので、五十七号は、調子を崩され、次第に必死に避けるようになっていた。

五十七号がトランクスの動きに気を取られている間に、パンは、五十七号の背後に回り、かめはめ波を放った。かめはめ波は五十七号の背中に命中したが、ダメージは無かった。しかし、背後からの予想外の攻撃を受けて五十七号が驚いた隙に、遂にトランクスの拳が五十七号の顔面を捉えた。

殴られた五十七号は倒れこそしなかったが、バランスを崩した。しかし、トランクスは好機と感じながらも、追加攻撃を思い止まった。深追いは禁物だと己に言い聞かせ、呼吸を整え、五十七号の次の出方を待った。このトランクスの戦術や落ち着き払った態度に、五十七号は、不覚を取った悔しさはあったが、素直に感心していた。

「驚いたぞ。仲間の援護があったといえ、俺に一撃を喰らわせるとはな。あれは確か三年前だったな。三年前に初めて会った時は、印象にも残らない取るに足らない奴だったが、今は別人のようだ。褒めてやるぞ」
「くっ、渾身の一撃だったのに、ほとんど効いてない。やはり俺の実力では、まだ勝てそうにないな」

トランクスの実力を多少なりとも認めた五十七号は、初めて前に出た。遂に攻撃を開始する気になったのである。トランクスは、自ずと気を引き締めた。そして、五十七号の猛烈な攻撃が始まった。対するトランクスは、反撃も防御もせず、ひたすら回避に専念した。五十七号は、トランクスよりスピードが上だったが、何故か攻撃が当たらなかった。トランクスは、五十七号の体の動きや目線等を注視し、次に何処を攻撃するか予測していたので、五十七号の攻撃を手際よく躱せたのである。

「す、すげえ。何でトランクスは、あんなに上手く攻撃を躱せるんだ?」
「トランクスは以前、ジフーミの攻撃を数十分も躱し続けた事があるのよ。回避力だけを見れば、トランクスは、お爺ちゃんより上よ。でも、何時まで躱し続けられるかな。回復力を除けば、五十七号はジフーミよりあらゆる面で遥かに上だもの」

やがてパンの懸念が現実となった。攻撃が当たらずに五十七号が苛立っていた間は、攻め方が単調だった為に避けやすかった。しかし、五十七号が気持ちを切り替えると、攻め方のバリエーションが増えたので、回避が困難になってきた。そして、五十七号の攻撃が当たるようになると、トランクスは徐々に減速してきた。それが回避率の減少にも繋がり、攻撃が当たる頻度が増した。それでもトランクスは、必死に躱そうとしたが、顔面に蹴りを喰らうと、遂に力尽きて倒れた。

「思ったより手古摺ったな。まあ、それなりに楽しめた。少々惜しい気もするが、こいつはジニア人の為に働きそうもない。ジニア人の敵を排除するのが俺の仕事なんでな。悪く思うなよ」

トランクスは、意識があったが、既に変身が解け、身動き出来ない状態だった。パンもクリリンも、どうする事も出来ず、悔しそうに眺めるしかなかった。そして、五十七号は、トランクスを踏み殺す為に右足を振り上げたが、何者かに蹴られて吹っ飛んだ。起き上がった五十七号が見ると、そこには悟空が立っていて、彼の背後にはベジータ、ピッコロ、ウーブまで居た。

「お前達は!?・・・どうやら役者が揃ったようだな」

悟空達は、五十七号を一同に睨んでいたが、五十七号は、一切動じなかった。

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