其の四十二 過酷な仕打ち

トランクス達の窮地を救った悟空達四人は、一同にハートボーグ五十七号を睨んでいた。五十七号も負けじと睨み返しており、その間にパンは、五十七号の足元で傷つき倒れていたトランクスに近付いた。五十七号はトランクスに目もくれなかったので、パンは何事も無くトランクスを抱え上げた。そして、歩きながら悟空に話し掛けた。

「お爺ちゃん。やっぱり来てくれたのね」
「ああ。一時間経っても、お前達だけ帰ってこねえから、何かあったと思って、全員で迎えに来たんだ。まさか五十七号が居るとは思わなかったけどな」

悟空達は、各自に割り当てられた星へ移動する前、いかなる事情があろうと一時間以内に全員が地球に戻り、もし一時間経っても戻らない者が居れば、その者には危険が迫っていると想定し、地球に戻った者が全員で助けに行くという取り決めをしてあった。そして、悟空、ベジータ、ピッコロ・ウーブ組は、一時間以内に地球に戻ってきたが、トランクス・パン組だけが戻らなかったので、取り決め通り、全員で助けに来た。

悟空はパンと話している間も五十七号を睨み続けていたが、ベジータはトランクスの様子が気になっていたので、視線を五十七号からトランクスに移していた。

「あの五十七号を相手に一人で戦い、よく俺達が来るまで持ち堪えたな。後は俺達に任せて、お前は休んでいろ」
「と、父さん。ドクター・スパインは死んでしまいましたが、五十七号は惑星ジニアの場所を知っています。だから奴を倒す前に、惑星ジニアの場所を・・・」
「分かった。お前の努力を無駄にはしない。パン、トランクスを頼んだぞ」

パンは頷いてから、トランクスをクリリンが居る場所まで抱えて行った。そして、トランクスを見送った後、今度はピッコロが五十七号に話し掛けた。

「スパイン師団は、全員片付けた。次は貴様だ。惑星ジニアの場所を訊き出してからな」
「あいつと戦っている間、他の連中が何処に居るのか気になっていたが、よもやスパイン師団と戦っていたとはな。ドクター・スパインもスパイン師団も居なくなれば、この銀河の支配計画が頓挫する。お前達は、どこまでミレニアムプロジェクトの邪魔をすれば気が済むんだ?」
「そんなの決まっているだろう!悟飯を救い、貴様等の馬鹿げた計画を止めさせるまでだ!」

ピッコロにとって五十七号は、不倶戴天の敵だった。普段は冷静なピッコロでも、この時は鼻息が荒く、目は血走っていた。

「スパイン師団を倒した位で調子に乗るなよ。同じサイボーグでも、奴等はジニア人の中でも下位のボーンが改造した欠陥品。俺はエリートであるオーガンが改造した完成品。その力は天と地程も違う。それを今から思い知らせてやろう。四人纏めて掛かって来い。いや、どうせなら五十六号を破った合体とやらを見せてみろ」

五十七号は、フュージョンに対抗心を抱いていた。五十六号の敵討ちの為ではなく、自分に肉薄する力を持っていた五十六号を破ったゴジータと戦ってみたいという戦士としての本能だった。しかも五十七号は、自分も同様に敗れるかもしれないという不安が微塵も無かった。自分に近い実力を持つ者が居るとしても、自分より強い者など絶対に居るはずがないという、痛快なまでの自負が五十七号にはあった。

その五十七号の要望には、ピッコロの代わりにベジータが応答した。

「貴様を倒すのに合体する必要は無い。どうしても合体して欲しければ、惑星ジニアの場所を白状するんだな」

ベジータの老化は既に始まっていたが、それでもベジータは修行を続けており、まだ悟空とフュージョン出来る可能性はあった。しかし、仮に五十七号の目の前でフュージョンを試し、万が一にも失敗した場合、五十七号に合体が出来なくなった事を教える形になる。そこでベジータは、思わせ振りな態度でフュージョンを避けた。

「少しは強くなったのが自慢のようだが、俺の強さを忘れてしまったらしいな。ならば思い出させてやろう!」

会話が終わり、遂に決戦の時となった。悟空とベジータは超サイヤ人4となり、ウーブは魔人と化した。それにピッコロも加えた四人が、ほぼ同時に五十七号に飛び掛かった。

まずピッコロが殴り掛かったが、五十七号は躱しつつ殴り返そうとした。しかし、ウーブが飛び蹴りしてきたので、五十七号は攻撃を断念して回避した。間髪入れずにベジータが上空から突撃し、避けられないと判断した五十七号は、両腕で防いだ。この時に悟空が、がら空きとなった腹部を殴った。五十七号がバランスを崩すと、ベジータとウーブが、それぞれ右と左の側面から腕の付け根辺りに回し蹴りをし、最後にピッコロが頭頂部を蹴り、五十七号をダウンさせた。

「おのれ!雑魚の分際で・・・」

悟空達の一連の攻撃を受けた五十七号は、いきり立ちながら起き上がった。五十七号は、悟空達の実力を見くびっていた訳ではなかったが、想像以上に素早く、しかも連携が取れていたので、一人一人の動きに対処し切れなかった。

「そんなに死にたいなら、望み通りにしてくれるわー!」

五十七号は猛スピードで悟空達に迫り、一人ずつ殴り飛ばした。五十七号のスピードが急上昇したので、悟空達といえども避けられなかった。五十七号の強烈な一撃を喰らっても、悟空、ベジータ、ウーブは立ち上がれたが、ピッコロはダメージが大き過ぎて身動き出来なくなっていた。

「な、何てスピードとパワーだ・・・。これほどまでに強いとは・・・」
「自分達が無謀な戦いをしている事が分かったか?どんなに強くなろうと俺には勝てない。後悔しても遅いぞ」

調子に乗った五十七号は、更に攻撃を続行しようとした。しかし、悟空が唐突に口を開いた。

「待て!五十七号!」
「この期に及んで命乞いか?ジニア人の為に働くと誓うなら、生かしてやっても良いが・・・」
「そうじゃねえ!訊きてえ事があるんだ」
「訊きたい事?どうせ惑星ジニアが何処にあるかだろう。誰が言うか!」
「そうじゃねえ!今、悟飯はどうしてるんだ?これだったら言えるはずだ」

もう三年も会っていない悟飯の安否は、悟空のみならず、その場に居る誰もが気になっていた。全員が口を噤み、五十七号からの応答を待った。

「それならば教えてやろう。孫悟飯を治療せずに牢に入れたが、奴は自然治癒で怪我が治ると脱獄した。その際、大暴れしたから、こっちは手を焼きつつも取り押さえた。再び投獄しても、しばらくすると、また脱走しやがった。それが何度も続いたから、奴隷にして肉体労働を強い、暴れられないようにした。ところが奴は、わざと手を抜いて力を温存した。そして、他の奴隷達を率い、反乱を起こした。何とか全員を取り押さえたが、こちらは大きな被害を被った」

連れ去られた悟飯が辛い生活を送っている事は想像に難くないが、そんな状況下でも、悟飯は決して敵に屈服せず、抗い続けていた。それを知った悟空達は、悟飯を誇らしく思った。しかし、五十七号の次の話は、そんな悟空達の思いを吹き飛ばす衝撃的なものであった。

「孫悟飯の度重なる抵抗に業を煮やしたドクター・ハートは、奴に抵抗する気概を失わせるよう、仕事量を倍増させた。朝から晩まで休み無く働かせ、一日の睡眠時間は一時間以下。奴が血を吐こうが気絶しようが関係なく、作業が中断したら、容赦なく鞭を打った。そんな日々が一年以上も続いている。ここまですれば、流石に脱走を企てなくなった。死ぬまで扱き使ってやる。いや、死んでもサイボーグに改造して蘇生させ、また働かせてやる」

五十七号の話は信じ難い内容だった。悟空達は一同に青ざめ、言葉を失っていた。パンは口を両手で押さえ、嗚咽が漏れるのを辛うじて堪えていたが、両目から涙が流れた。ピッコロは地面に顔を伏せ、悔し涙を流していた。そして、悟空は怒りに体が震え、自我を保つのに必死だった。

「よ、よくも悟飯をそんな目に!何の恨みがあって、そこまで酷い仕打ちをするんだ!?」
「恨みか・・・。強いて言えば、俺達に服従しない事かな。本当に馬鹿な奴だ。俺達に協力すると言えば、すぐに奴隷生活から開放される。奴の実力ならば、裕福な生活だって送れるだろう。下らん正義感の所為で、奴は身を滅ぼす事になるのだ」
「悟飯を馬鹿にするなー!」

悟空の我慢も限界だった。これまでは惑星ジニアの場所を訊き出す為、五十七号を殺さないように力を抑えて戦っていたが、最早そんな考えも吹き飛んでいた。今の悟空は、五十七号に対する怒りが体の中で充満していた。悟空から感じられる気が急速に高まり、それに併せて体が変化していった。胸毛が胸を完全に覆い、上半身の毛の色が全て赤から茶色に染まり、瞳の色が赤になった。悟空は合体に頼らず、己の力のみで超サイヤ人5へと変貌した。

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