其の四十三 悟空の快進撃

超サイヤ人5への変貌を遂げた悟空は、ハートボーグ五十七号を鋭い眼差しで睨みつけた。その凄まじい眼光に、五十七号は動揺を覚えた。五十七号が気圧されている間に、悟空は一気に攻勢に出た。一瞬で五十七号の眼前に移動し、その横面を殴り飛ばした。続けて、吹っ飛ばされた五十七号の後を追い、背中を両方の拳を握り締めて叩き付けた。五十七号は地面に激突したが、すぐに立ち上がった。そして、上空の悟空を目指して飛び、猛攻を仕掛けたが、悟空は全て防いだ。

悟空が孤軍奮闘している間に、身動き出来ないピッコロをウーブが抱えて、トランクス達が居る場所に向けて歩いていた。ベジータも後に続いた。ベジータもウーブも変身を解いて元の姿に戻っており、二人とも戦闘を悟空一人に任せる考えだった。五十七号には悟空一人で充分であり、自分達が居ると却って悟空の邪魔になると思ったからである。

悟空は優勢に戦っていたが、それを観ていたウーブは、ある事を懸念していた。

「悟空さんの勢いでは、五十七号を一気に倒してしまいそうです。倒す前に惑星ジニアの場所を聞き出さなければならないのに・・・」
「悟空が何も聞き出さずに五十七号を倒したとしても、あいつを責められん。俺が同じ立場だったら、五十七号を倒す事に躍起となっていただろう。悟飯の無念を思えば・・・」

ピッコロは、思わず言葉を詰まらせた。これまでピッコロは、悟飯を救出する事と、ジニア人の計画を潰す事のみを考えて戦ってきた。しかし、悟飯の惨状を知った今では、彼を苦しめ続けた敵に、彼に代わって報復したいというのが、ピッコロの中に新たに芽生えた思いだった。

ピッコロ達が話している間に、三人は移動を終えていた。そして、ベジータがトランクスの方を見ると、何故かトランクスが立ち上がろうとしていた。

「トランクス。無理をするな。横になっていろ」
「こ、この程度の傷で倒れていては、悟飯さんに合わせる顔がありません」
「・・・そうだな。俺も年を取ったと泣き言を言ってられん。悟飯を救出する為、俺も早く超サイヤ人5にならなければ・・・」

悟飯の現状を知った時から、ベジータやトランクスの考えが変化していた。どうにかして悟飯を助けたいという漠然とした願いから、絶対に助けなければならないという断固たる決意に変わっていた。

戦いの方は、相変わらず悟空が優勢に戦っていた。一方、初めて経験する劣勢に、五十七号は動揺してきた。

「この俺が押されているだと!?馬鹿な!俺は全宇宙最強なんだ!俺が負けるはずがない!」
「ちょっと不利になった位で、その様か?お前は、自分より弱い者としか戦えないのか?」
「何だと!?この俺を見くびるなー!」

五十七号は両手を前面に出し、衝撃波を放った。悟空は即座に防御したが、後方に吹き飛ばされてしまった。悟空は踏ん張って空中に停止したが、五十七号は続けて体当たりした。更に五十七号は、悟空が態勢を立て直す前に彼の右腕を掴み、体ごと上空に投げ飛ばした。

「くたばれ!リバースメテオボンバー!」

上空に投げ飛ばされた悟空目掛け、五十七号の両手からエネルギー球が何発も放たれた。そして、上空で大爆発が繰り返し起こった。爆発の衝撃で星全体が大きく揺れ動いた。この技は、かつて悟飯と対戦した時にも使われ、その時の悟飯は瀕死の重傷を負った。しかも当時の五十七号は、悟飯を殺さないよう手加減していたが、今は完全に本気だった。一つ一つのエネルギー球の大きさは、悟飯の時よりも大きく、数も多かった。当然、威力も上だった。

「ハアハア・・・。これだけ喰らえば、流石に生きてはいまい」

エネルギー球を放ち終えた五十七号は、爆発によって発生した煙が晴れるのを待った。悟空の肉体は欠片も残っていないと五十七号は確信していた。ところが、煙が完全に霧散すると、そこには五体満足の悟空が居た。悟空は防御に専念し、一発で星の破壊が可能なエネルギー球の雨を、ひたすら耐え忍んでいた。流石に無傷ではなかったものの、まだ充分に戦える状態だった。悟空は、驚愕の表情を浮かべている五十七号の眼前に降り立った。

「な、何て奴だ。俺のリバースメテオボンバーを喰らって、生き延びるとは・・・」
「悟飯の受けた苦しみに比べたら、こんなの全然大した事ねえ。お前も悟飯の苦しみを思い知れ!」

悟空の怒涛の反撃が始まった。その勢いは凄まじく、五十七号は全く抵抗出来ずに殴られ続けた。悟空は正に怒れる竜で、五十七号は己の不用意な発言が、竜の逆鱗に触れてしまった事を激しく後悔した。そして、悟空の右のストレートを喰らうと、五十七号は地面に何度もバウンドして吹っ飛ばされ、最後は岩山に激突して倒れた。悟空は、五十七号が立ち上がる前に素早く近付き、その首根っこを握り締めた。

「お前に勝ち目は無い。いい加減に諦めて、惑星ジニアの場所を言え」
「どうせ言おうが言うまいが、最終的に俺を殺すつもりだろう。誰が言うか」
「素直に言えば、開放してやる。言わない限り、俺は殴り続ける。どうする?」
「場所を言う事は、ジニア人に対する裏切り行為だ。裏切る位なら、俺は死を選ぶ。俺の体の中にある爆弾を使ってな。爆弾が爆発したら、お前も、お前の仲間も、全員死ぬ事になる」

爆弾は苦し紛れの嘘だったが、真実を知らない悟空は、五十七号の首を握り締めていた手を離してしまった。これ以上追い詰めると、取り返しが付かない事になると思ったからである。悟空が手を離すと、五十七号は立ち上がり、ゆっくりと宙に浮かんだ。

「今回は痛み分けという事にして、大人しく引き下がってやる。だが、いずれ必ず殺してやる」

五十七号は、捨て台詞を残して一目散に飛び立った。悟空は五十七号を追跡しなかったが、遠ざかる標的を見据えて、かめはめ波を撃つ態勢になった。

「お前を逃がすはずがねえだろ!喰らえ!十倍かめはめ波ー!」

悟空の手の平から放たれた十倍かめはめ波は、瞬く間に五十七号に追いつき、その姿は光に飲み込まれて見えなくなった。悟空は五十七号が遠ざかってから攻撃したが、それは倒した衝撃で爆弾が爆発したとしても、ある程度の距離を置けば、被害は小さいと考えたからである。しかし、存在しない爆弾が爆発するはずないので、結局、悟空は何の影響も受けなかった。

悟空は、深い溜息を吐いてから変身を解き、仲間達の元に歩いていった。

「悪い。惑星ジニアの場所を聞き出せなかった。問い質したけど、自爆すると脅してきたから」
「しくじったな、カカロット。五十七号が乗ってきた宇宙船には、惑星ジニアの場所が記録してあったかもしれんのだぞ。奴が宇宙船に辿り着くまで追跡するべきだった」
「そ、そうか!だったら奴が乗ってきた宇宙船を探さないと・・・」
「馬鹿野郎!こんな広い星の中から、何の手掛かりも無く、どうやって探せと言うんだ?」

五十七号は、惑星ジニアから宇宙船に乗って来たのだから、彼が逃げた先には、その宇宙船が置いてあったかもしれない。もし逃げる五十七号の後を追っていれば、彼の宇宙船を発見し、宇宙船のログから惑星ジニアの場所が判明したかもしれない。しかし、今となっては五十七号の宇宙船を見つけ出すのは、実質不可能だった。

その後、悟空達はドクター・スパインの工場や基地に行き、そこに居た協力者達に惑星ジニアの場所を知らないか尋ねた。また、基地にあった宇宙船のログを一台一台調べたが、何の収穫も得られなかった。

悟空達は、協力者達の命を奪わなかったが、今後一切ジニア人に協力するなと強要した。それに対して協力者達は、渋るどころか、むしろ喜んで応じた。協力者達は、ドクター・スパインに服従していたが、それはスパイン師団やスパインボーグの強さに怯えていたからである。だから、もう従わなくて良いと歓喜した。そして、ある者は自分の故郷の星に、またある者は他の協力者達と共に新天地を求めて、それぞれ四散していった。

協力者達を見送った後、悟空達は、この星を後にした。また惑星ジニアに向けた長い旅を続けていくが、これまでとは意気込みが違っていた。悟飯が辛苦に喘いでいるならば、自分達だって昼夜を置かず救出に専念せねばならない。悟飯を助ける日まで、悟空達は片時も休まない心積もりだった。

悟空達や協力者達が去った後、誰も居ないはずの大地に蠢く人影があった。それは、悟空に倒されたはずの五十七号だった。左腕と右足を失い、皮膚の半分以上が焼け爛れて中の機械の部分が露出した無様な姿だったが、それでも生きていた。

「こ、このままでは済まさんぞ。か、必ず復讐してやる。だ、だが、その前に、この事をドクター・ハートにお伝えせねば・・・」

満身創痍の五十七号は、地面を這いつくばりながら、自分が乗ってきた宇宙船に向けて移動していた。

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