其の四十五 地獄からの刺客

悟空がハートボーグ五十七号を撃退してから数年の月日が流れた。夜が明け始めた頃、西の都のブルマの家で、ベジータとブルマが同じ部屋で眠っていたが、ベジータが突然魘された。その声が余りにも大きいので、隣のベッドで眠っていたブルマは跳ね起き、ベジータの体を揺すって起こそうとした。

「ちょっと、ベジータ!一体どうしたのよ?ねえ!起きてよ、ベジータ!」

ブルマの呼びかけで目覚めたベジータは、上体を起こした。ベジータは体中が汗だくで、吐息も激しかった。

「随分魘されてたみたいだけど、大丈夫?それにしても珍しいわね。いつもは静かに寝てるのに」
「若い頃の夢を見ていた。フリーザに仕え、いいように使われていた過去の夢をな。何故、今頃になって、こんな夢を見たんだ?地球で暮らすようになってから一度も見た事が無かったが・・・」

フリーザに仕えていた頃の屈辱の日々を、ベジータは忘れていなかった。しかし、それを終わった事だと割り切り、気にしないようにしていた。

不安を感じたベジータは、風に当たって気持ちを落ち着けようと庭に出た。既に太陽が出ており、少し肌寒かった。ベジータは遠くの空を見つめ、悪夢を見た原因を模索していた。その時、空の別の角度から気弾がベジータに向かって飛んできた。しかし、ベジータは冷静に気弾を弾き、それが飛んできた方角を凝視した。そこには三つの人影があった。その三つの人影は、ゆっくりとベジータに近付いて来た。

やがて三人組の姿が克明に見えてくると、ベジータは先程の夢の続きを見てるんじゃないかと思って仰天した。その三人組の正体が、かつてフリーザに仕えていたザーボン、ドドリア、キュイだったからである。ザーボン達は邪悪な笑みを浮かべつつ、ベジータの目の前に降り立った。

「よう、ベジータ。久しぶりだな。それにしても、しばらく見ない内に随分老けたな」
「貴様は全く変わってないな、キュイ。どうやって生き返ったのか知らないが、また地獄に送り返してやる」

キュイに限らず、三人とも見た目が以前と全く変わっていなかった。それは彼等が復活したのは、つい最近である事を示していた。

「簡単に俺達をやれると思うなよ。俺達はサイボーグに改造されて、以前とは比較にならないほど強くなったんだからな」
「何だと、ドドリア。サイボーグだと?・・・待てよ。もしや貴様等が生き返ったのは、ジニア人が関わっているのか?」

しばらくジニア人との間に衝突は無かったが、彼等との戦いは依然として続いていた。ベジータはサイボーグと聞いただけで、この三人組の背後にはジニア人が居ると直感した。

「我々は、ジニア人のドクター・スカルが開発した『リバイバルマシーン』によって復活した。これはメディカルマシーンと似た外見の機械だ。まず水槽に『リビングドール』という生きた人形を入れる。次にキーボードに生き返らせる者の名前を打ち込む。すると、あの世から打ち込んだ名前に該当する者の魂が召喚され、人形に乗り移る。魂が乗り移った人形は、その魂が記憶してる生前の姿に形を変える。そして、死者は人形を新たな体として復活を遂げるという寸法だ」

ザーボンは得意気に説明したが、ベジータには腑に落ちない点があった。

「何故ドクター・スカルとやらは、貴様等の名前を知ったんだ?接点は無いはずだぞ」
「孫悟飯とかいう奴の記憶を参考にしたからだ。ジニア人には人の記憶を読み取り、それを視覚的に表現する機械がある」
「厄介な機械だな。しかし、悟飯が貴様等の名前まで知っていたとは思えん。あいつが名前を知っている者と言えば、せいぜいフリーザのはず・・・そうか!」

ベジータは、ザーボン達の名前をドクター・スカルが知り得た理由が分かった。まずフリーザを生き返らせば、彼の口から部下の名前が判明する。名前さえ分かれば、悟飯の記憶に頼らなくても、ザーボン達を生き返らせる事が可能となる。その発想でいくと、生き返った者が知っている人間は、全て復活出来る事になるので、最終的には膨大な数の死者が蘇生したと予想される。しかも生き返った者達は、サイボーグに改造され、生前より強くなっているはずである。

「ところで、貴様等は何故ここに来た?俺を殺す為か?」
「当然だ。お前には恨みがあるからな。お前の仲間も殺してやる。ただし、お前の息子のトランクスは、フリーザ様が直接殺したいと要望されているから、そいつだけは対象外だがな」
「トランクスをフリーザに殺させてたまるか。しかし、フリーザが生き返ったのは、こちらにとっても都合が良い」

子供の頃からフリーザに虐げられてきたベジータは、是非とも自分の手でフリーザを殺したいと願っていた。ところが、以前にフリーザと戦った時は、ベジータは手も足も出ずに敗れてしまった。その後、フリーザは悟空に敗れ、未来から来たトランクスによって葬られた。フリーザが死んでしまったので、ベジータの願望は永久に成就しないはずだった。しかし、フリーザが生き返った今、ベジータに再び機会が巡ってきた。ベジータの闘志は、烈火の如く燃え上がった。

「俺が用があるのは、フリーザだけだ。貴様等三下は邪魔だ。今なら見逃してやるから、戻ってフリーザを連れて来い」
「何だと!?生意気な奴め!フリーザ様と戦いたければ、まずは俺達に勝ってからにしろー!」

ザーボン達は、三人同時にベジータに襲い掛かってきた。寝起きという事もあって、戦闘準備が出来ていなかったベジータは、三人の攻撃を食らってしまった。ベジータは姿勢を崩し、口元から血が滲み出たので、手の甲で血を拭き取った。

「強くなったと言っても、所詮この程度か。残念だったな。折角、生き返ったのに、何の役にも立たず、また殺されるんだからな。貴様等は知らんかもしれんが、俺は貴様等を倒した後も特訓で強くなり続け、今では伝説の超サイヤ人にまでなった。格の違いを思い知らせてやろう」

ベジータは履いてたサンダルを脱いで裸足になると、目にも留まらぬスピードで飛び掛かり、ドドリアとキュイを瞬殺した。最後に残ったザーボンは、ベジータの余りの速さや強さに、恐れ慄いた。

「ま、まさか、ここまで強くなっていたとは・・・」
「少し時間をやるから、あの醜い変身をしやがれ。まあ変身しても、俺に勝てるとは思えんがな。命が惜しければ、フリーザに泣きついて、ここに奴を連れて来い」
「ドドリア達に勝ったからといって、フリーザ様まで侮ると痛い目に遭うぞ。何せフリーザ様は、新技法で改造されたからだ。その力は、我々とは次元が違う」

ザーボン達三人は、ドクター・スカルではなく、彼の協力者達によって従来の方法で改造された。言い換えれば、ザーボン達は旧タイプのサイボーグだった。それに対し、フリーザはドクター・スカルが直に、しかも新方式で改造された。フリーザはドクター・スカルに期待されていたので、特別な手法で改造された。しかし、それを聞いても、ベジータに恐怖は無かった。

「それは良かった。あっさり勝っては、恨みが晴れんからな。戦いが長引けば、その分フリーザを苦しめられる。貴様がフリーザを連れて来ないなら、俺から会いに行ってやる。奴は何処に居る?」

ザーボンがフリーザの居場所を言えるはずがなかった。何故なら、フリーザは他に生き返った者達と共に、ドクター・スカルの側に居るからである。更に、そのドクター・スカルの傍らには、リバイバルマシーンがある。リバイバルマシーンさえあれば殺されても復活出来るのだから、命に替えても守らねばならない貴重な物である。彼等にとっての敵であるベジータをリバイバルマシーンに近付かせる訳にはいかなかった。

切羽詰ったザーボンは、勝てないのを承知の上で、ベジータに戦いを挑んだ。しかし、ベジータに一撃で叩き伏せられた。ザーボンは瀕死の重症を負い、息も絶え絶えだった。

「み、見事だ。だが、私を殺しても無駄だ。リバイバルマシーンで、すぐに生き返れるからな」
「何の役にも立たなかった貴様を、ドクター・スカルが再び生き返らせてくれるとは思えんがな」
「そ、そんな・・・。私は、もう生き返れないのか?この美しい体に改造までされたのに・・・」

ザーボンは、ショックを受けたまま死んでいった。ベジータは、ザーボン達三人の死体を宙に放り、エネルギー波で消し飛ばした。

「フリーザよ。今度こそ、今度こそ俺の手で貴様を葬ってやる!」

ベジータは、不退転の決意を固めていた。その頃、地球に近い星にある基地の中では、ベジータが映ったモニターを、ドクター・スカルが観ていた。これまでのベジータとザーボン達とのやり取りは、小型の偵察機を通して、ドクター・スカル側に筒抜けとなっていた。そのドクター・スカルの両脇には、フリーザとセルが立っており、彼等も同じくモニターを観ていた。

「あの三人が勝てるとは期待していなかったが、これから戦う孫悟空達の力を少しでも知る為に、彼等を地球に派遣した。しかし、あそこまで実力差があったとはな・・・。もう少し強い奴を送るべきだった。あんな役立たず共は、もう要らん!」

ドクター・スカルは、ザーボン達の不甲斐無さに憤慨していた。一方、フリーザとセルは、ベジータが圧勝する映像を観ても、全く動じていなかった。

「ふっふっふっ・・・。ベジータが老いたと知って、戦闘力が以前より落ちたんじゃないかと思ったが、その心配は無さそうだ。もっとも、あの程度の動きでは、今の私に手も足も出ないがな」
「ベジータの始末は譲っても良いけど、トランクスは僕が殺すよ。未来や現在など関係無い。あいつだけは絶対に許さん!」

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