其の四十六 バトルフィールド

甦ったフリーザの部下三人に自宅の庭で襲撃されたが、見事に返り討ちにしたベジータは、すぐに仲間を全員呼び集め、早朝の出来事を話した。過去に戦った敵が多数復活し、しかもサイボーグに改造されてパワーアップまでしていると知り、悟空達はショックの色を隠せなかった。

「まず俺達は、リバイバルマシーンとかいうガラクタの破壊を優先すべきだ。そうしなければ、苦労して敵を倒しても、また復活させられ、こちらが倒れるまで戦いが終わらん。おそらくリバイバルマシーンは、ドクター・スカルの近くにあると思う。だから最初にすべき事は、ドクター・スカルの居場所を突き止め、奴の捕獲とリバイバルマシーンの破壊に専念すべきだ。生き返った敵を全滅させるのは、その後だ」

ベジータが唱えた意見に、誰も異論は無かった。しかし、敵側にとって生命線とも言えるリバイバルマシーンを、そう易々と破壊させてもらえるはずがない。悟空達をリバイバルマシーンに近付かせないよう妨害してくる事が予想された。

悟空達が憂慮すべき点が、もう一つあった。今までのジニア人との戦いでは、敵の本拠地に乗り込んで戦う場合が大半だったから、周囲を気にしないで戦う事が出来た。しかし、今回は敵の方から来ているので、地球での戦いとなる。地球で戦うとなると、地球人が争いに巻き込まれないよう注意して戦わねばならない。地球人の犠牲は、是が非でも避けたかった。

「ドクター・スカルを探すのは結構ですが、その間に大勢の敵が攻めて来ても対応出来るようにする為、惑星ジニア行きを一時中断し、戦えるメンバー全員が地球に残りましょうか?」

地球を守りつつ大勢の敵と戦うなら、味方側の戦力を削る余裕は無い。惑星ジニア行きを一時中断し、全戦力を投入すべきだとトランクスは提案した。

「いや、トランクス。ドクター・スカルから惑星ジニアの場所を聞き出せなかった場合を想定し、惑星ジニア行きは続けた方が良い。ただし、宇宙で予期せぬ敵と遭遇した場合に対処する為、クリリンとヤムチャに乗船してもらう。ジニア人が相手では役不足な二人だが、それ以外が相手なら何とか乗り越えられるだろう。もし勝てそうもなかったら、逃げれば良い」

悟空達は今でも順番に宇宙船に乗船していたが、ドクター・スパインの一味と遭遇して以降、一度も敵と遭遇しなかった。ピッコロは、その点を視野に入れ、戦闘メンバーが船に居なくても、すぐに問題は起きないだろうと判断した。しかし、何時不測の事態に見舞われるか分らないので、少しでも戦闘が出来る者が船内に居るのが望ましかった。

その後、ウーブと操縦士二人を乗せた宇宙船が、交代の為に地球に帰還したので、クリリンとヤムチャと別の操縦士二人が彼等に替わって船に乗り、すぐに旅立った。またピッコロは、不在だったウーブの為に、これまでのあらましを説明した。その一方で、悟空は四人の界王の元に行き、ドクター・スカルの潜入場所を探すよう依頼した。

全員が事態を把握し、後は界王からの連絡待ちである。悟空達は修行を控えて体力を温存し、敵の襲来に万全の状態で備える事にした。そして、人気の無い山の上で待機している最中に、悟空がとんでもない事を言い出した。

「なあ、フリーザが復活した事をレードは知らねえだろ?あいつに伝えたら、どうなると思う?」
「何?そんな事をしたら、レードはドクター・スカル側に付くだろう」
「そうかなあ?レードはジニア人との戦いの時限定で、オラ達に協力するって言ってたぞ」
「レードの言う事など当てにならん。そもそも奴が俺達に味方するのは、ドクター・リブに自分の子供達を殺されたからだ。そのドクター・リブが死んだ今、俺達に味方する理由は無い」

レードが今回の件を知れば、必ず興味を抱くだろう。父に会う為、地球に来る事もありうる。しかし、悟空サイドとドクター・スカルサイドを天秤に掛けた場合、レードがどちらの味方になるかと考えれば、ドクター・スカルサイドに付く可能性の方が高いと思われた。これはベジータのみならず、他の仲間達も同じ考えだった。しかし、悟空の考えは違っていた。

「オラは、そう思わねえ。レードは悪だが、筋が通った悪だ。フリーザとは違う。一度した約束を、そう簡単に反故にする奴じゃねえと思う。それに、今は味方が一人でも多く欲しい時だ。レード達に知らせれば、レードだけでなく、悟天も地球に来てくれるだろう。悟天がドクター・スカルに味方するはずがねえ。上手くすれば、これが悟天を地球に戻すきっかけになるかもしんねえしな」

悟空は、ピンチをチャンスと捉え、これを機に悟天が地球に帰ってくるのを期待していた。悟天の事を持ち出されれば、ベジータも流石に否とは言い辛かった。

悟空達が話し合っていると、辺りが急に真っ暗になった。夜になるにはまだ早過ぎる時間帯で、しかも空には星一つ見えない深い闇だった。突然の事態に驚く悟空達の元に、頭上から大きな気が迫ってきた。悟空が超サイヤ人になって自らが光を発する媒体となり、気を発している対象を見ると、それは何とセルだった。セルは、悟空達の目の前で降り立った。

「久しぶりだな、孫悟空」
「おめえも生き返っていたか、セル。この暗闇は、おめえ達の仕業だな?おめえ一人で、オラ達全員と戦う気か?」
「ふっふっふっ・・・。そうしても良いが、私一人でお前達全員を倒すと、他の連中に恨まれるからな。ここに来たのは、ルールを説明する為だ。あれを見ろ」

セルが頭上を指差すと、頭上が急に光り、銀色の物体が浮かんでいるのが見えた。太陽の光を完全に遮り、地上を暗闇の世界にしたのだから、相当大きな物体が宙に浮かんでいる事が分かった。

「あれは『バトルフィールド』という名の空飛ぶ闘技場だ。大きさは小惑星程もある。中は迷路となっていて、迷路の途中には部屋がある。部屋の中には戦士が一人待機し、そいつを倒さないと先に進めない仕組みになっている。中心部がゴールとなっていて、そこにドクター・スカルが居る。リバイバルマシーンもそこにある。外壁には無数の穴があり、そこが入り口となっている。好きな穴を選んで中に入るが良い。どの穴に入るかは、お前達の自由だ」

セルは、悟空達にバトルフィールドの中に入るよう促した。

「あんなのまで用意するとはな。そんな面倒な物を使わないでも、おめえ達全員で一斉に襲い掛かった方が、楽にオラ達を倒せるんじゃねえのか?」
「私達が一斉に襲い掛かると、ドクター・スカルの周囲が手薄になる。そして、お前が戦いの混乱に乗じて、瞬間移動でドクター・スカルの側まで来るかもしれない。その点、あのバトルフィールドの中だったら、特殊な壁で気が外に漏れないから、お前の瞬間移動も役に立たない」

悟空達が自分を狙うのを、ドクター・スカルは事前に見抜いていた。それならば、自分を餌に悟空達を誘き寄せ、自分のテリトリーの中で皆殺しにしようと画策した。バトルフィールドの中は相当広い為、そう易々と中心部に着けないし、引き返すのも容易ではない。そして、途中で遭遇する敵が行く手を阻み、その敵を倒さなければ先に進めない。苦労して敵を倒しても、倒した敵が万全の状態で復活してしまう。正攻法で攻めれば、悟空達に勝ち目が無さそうに見えた。

正攻法が無理なら、外から元気玉等でバトルフィールドその物を破壊する反則技も考えた。それだと余計な戦いをせず、リバイバルマシーンの破壊が可能だが、同時にドクター・スカルを殺してしまう事になる。惑星ジニアの場所を聞く前にドクター・スカルを殺す訳にはいかなかった。それに、あんな巨大な物体が爆発したら、地球に大きな被害が出る。瞬間移動が使えず、このまま放置する訳にもいかないので、正面から攻める以外に活路を見出せそうになかった。

「あの中に本当にドクター・スカルが居るのか怪しいものだ。中に居ると見せかけて、実は別の場所に居るんじゃないのか?」

ベジータの指摘に、セルは鼻で笑った。

「ベジータともあろう者が、随分弱気だな。仮にドクター・スカルが別の場所に居て、それをお前達に見抜かれれば、お前達はバトルフィールドの中に入らず、ドクター・スカルの潜入場所に向かうだろう。下手な小細工は、却って自分の身を滅ぼす。ドクター・スカルは、そんな愚かな男ではない。さてと、覚悟を決めたら中に入るが良い。私も部屋の中で、お前達の来訪を待っている。じゃあな」

説明を終えたセルは、上空に飛び上がり、バトルフィールドの側面にある穴の一つに入っていった。セルが中に入った途端、セルの大きな気が消えた。セルが言った通り、中の特殊な壁が、気が外に漏れるのを防いでいた。

セルが立ち去った後、界王から直ちに連絡が入った。バトルフィールドの中心部には、ドクター・スカルらしき人物が居て、その男の近くにはリバイバルマシーンらしき機械があるという。界王のお墨付きを得た今、悟空達には中に入る以外の選択肢は残っていなかった。しかし、ほとんどのメンバーが憂鬱になっていた。ピッコロも普段以上に青ざめていた。

「セ、セルの奴、あいつもサイボーグに改造されたと思うが、何で気が感じられたんだ?それも凄まじく大きな気だった・・・。あんな化け物が、バトルフィールドの中にはゴロゴロ居るのか?だとしたら、俺達だけでは太刀打ち出来そうもない。やはりレードの力を借りるしかないのか?」
「そうだな。オラがこれから惑星レードに行き、悟天とレードを連れて来る。それまで皆は中に入らず、ここで待っていてくれ」

悟空を止める者は、誰も居なかった。ピッコロ達がレードを信用しないのは変わらないが、このメンバーだけでバトルフィールドの中に乗り込んでも、ドクター・スカルの元に着くどころか、全滅させられるかもしれないと危惧していたからである。全滅覚悟で乗り込むぐらいなら、レードが居た方がましだと考えていた。

悟空は、そこまで悲観していなかったが、皆が不安を抱えている内に、レードを連れて来てしまおうと目論んでいた。悟空は皆をその場に残し、カプセルコーポレーションまで飛行し、そこに保管してあるジニア人の宇宙船の中に乗り込んだ。大変な状況なのは分かっていたが、それでも悟空の心は弾んでいた。久しぶりに悟天に会えるからである。

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