其の四十七 生意気な孫

悟空は、レードと悟天の力を借りる為、カプセルコーポレーション内に保管してあった予備のジニア人の宇宙船を操縦して貰い、一瞬で惑星レードまで移動した。悟空が船の外に出て風景を見渡すと、以前来た時には無かった建物があった。そして、その建物の中からレードや悟天の気を感じた。悟空は、その建物に向けて飛行した。

その建物は、ドーム状であり、外から中の様子を確認出来なかった。一先ず悟空は、そのドーム状の建物の周りを飛んで入り口を探した。そして、入り口らしき正門を発見したが、その前に門番と思しき者が二人立っていた。悟空が二人の目の前に降り立つと、彼等は悟空の存在に気付くや否や悟空を邪険に扱った。

「な!?お、お前は孫悟空!ここに何しに来た!?中には入れさせんぞ!帰れ帰れ!」
「レードに用があって来た。中に入れてくんねえなら、ここに連れて来てくれ。悟天もな」
「それは出来ない。トレーニング中だからだ。レード様がトレーニングしている間は、緊急事態が起きない限り、何人たりとも中に入る事は許されていない。出直して来い!」
「その緊急事態が起こってるから会わないといけねえんだ。通してもらうぞ」

悟空が正門に向けて歩み寄ると、二人は抵抗もせず、悟空に道を譲った。悟空に抗っても勝ち目が無い事を分かっていたからである。二人が無事に通してくれたので、悟空は少し安心した。悟空が強引に中に入ろうと騒動を起こせば、それが原因でレードとの関係が拗れるかもしれない。これからレードに頼み事をするのだから、余計なトラブルを起こしたくなかった。

建物の中に入った悟空は、思わず目を見張った。見渡す限り、様々なトレーニング用の器具が置いてあり、それも地球では見かけない物ばかりだった。悟空は、これ等の器具に興味を抱き、周囲を見回していると、背後から以前聞いた事がある声が聞こえてきた。

「悟空さん!お久しぶりです!」
「あ!おめえは、パシリ!久しぶりだなー」
「・・・リシパですよ。まあ、パシリみたいなものですけど」

悟空の目の前に現れたのは、かつて宇宙一武道会が開催された際、悟空達の世話役として尽くしてくれたリシパだった。久しぶりに会う人物に、悟空の顔が綻んだ。

「おめえ、まだレードに従って雑用させられてるのか?」
「え、ええ。私の故郷である惑星パーシタは、惑星レードの属国ならぬ属星ですから」
「そっか。ところで、以前に来た時は、こんな建物は無かったぞ。新しく建てられたのか?」
「はい。ここは最新科学を使って建てられた近未来型のトレーニング施設です。私は、レード様に命令されて、ここにある器具の点検をしていました」

以前から科学の力を重視していたレードは、科学を使った新しいトレーニング方法を模索していた。そこでレードは、自分が支配する星々に住む優秀な頭脳を持つ者や、同盟を結んでいる宇宙科学者連盟から派遣された科学者達に、トレーニングに使う器具の製造を命じていた。かつてドクター・リブに仕えていた元協力者達も、今では洗脳が解け、器具の製造に一役担っていた。そうした者達の努力の甲斐あって、この施設内には最新科学を駆使した器具が豊富に設置されていた。

「最新科学を使ったトレーニング方法か・・・。それって普通のトレーニングと比べて、どれだけ優れてるんだ?」

かつてナメック星に行く際、科学の力で作った重力装置を使って修行した事がある悟空にとって、最新科学を使ったトレーニングには少なからず興味があった。

「ここで特訓する人は、まず現時点の身体能力を測定されます。測定結果は、コンピュータにインプットされ、ここにあるトレーニング器具の中から、どういう組み合わせで、どれだけ特訓すれば、最も能力値が上昇するかをシュミレーションします。そして、器具を正しく使うよう各人にはトレーナーとなるロボットが付きます。トレーニング終了後、シュミレーションした結果と全く同じ成果が得られるとは限りませんが、ほとんど誤差はありません」

現在の悟空達は、科学の力を一切使わずに修行している。一方、レードは科学を使った方法で強くなろうとしている。どちらがより効果的かの比較は簡単には出来ないが、例えレードのトレーニングの方が優れているとしても、悟空は真似したいと思わなかった。コンピュータによって内容を細かく決めさせられる雁字搦めのトレーニングは、息苦しくて面白味が無く、長く続けられそうにないからである。

「レード様は以前、こんな事を仰ってました。『特訓というのは、ただ長い時間やれば良いというものではない。効率よく続けるのが最も大事なのだ』と。レード様は、惑星レードや、その他多くの星を治めている立場上、政務が山のようにあります。特訓の時間を長く確保出来ません。しかし、ここでは短い時間でも、その時間内で出来る最適な特訓メニューを表示してくれます。ここは正に、レード様の理想を具現化した場所なのです」

いつも忙しいレードには、トレーニングの時間が限られていた。その為、レードの特訓には量よりも質が重視された。逆に悟空達は、レードのように時間や効率を考えて鍛えていないが、ほぼ毎日朝から晩まで修行しているので、質よりも量の面で優れていた。

「この施設は、レード様にとって特別な場所ですから、レード様が認めた者しか使えません。現在は、レード様の他、悟天様、アイス様、それとゴカン様のみ利用出来ます」
「ゴカン?それって誰だ?」
「え!?ゴカン様を御存知ないのですか?悟天様とアイス様の間に産まれた、お子様です」
「何だって!?悟天に子供が居るなんて聞いてねえぞ!」

悟空は、ゴカンの存在を知らなかった。悟天は、ゴカンの誕生を悟空に知らせていなかった。幾ら疎遠になっても、子供が生まれた事ぐらい報告して欲しかったと悟空は思った。そんな折、悟空の背後から怒声が聞こえてきた。

「おい!そこの奴!誰の許しを得て、ここに居るんだ!?」

悟空が振り向くと、そこには見慣れない小さな子供がいた。戦闘服を身に着け、サイヤ人特有の尻尾が生えた子供は、悟空達の話題に出ていたゴカンだった。ゴカンは、トレーニングの最中に悟空の存在に気付き、知らない人間が勝手に施設の中に入った事に激怒し、文句を言いに来た。一方、悟空は一見で、その子がゴカンだと悟った。

「おめえがゴカンだな?父ちゃんからオラの事を聞いてねえか?オラは、おめえの父ちゃんの父ちゃんである孫悟空だ」
「何!?お前が孫悟空か!?お前があの・・・。うおー!」

ゴカンは、初めて会う祖父に挨拶する所か、いきなり殴り掛かってきた。しかし、どんなに強くても子供の攻撃が悟空に当たるはずもなく、悟空の片手で容易く受け止められてしまった。悟空は、ゴカンの拳を握ったまま、体ごと持ち上げた。

「くっ、離せ!この野郎!」
「元気な坊主だな。それに、よく鍛えてある。でも、行儀が悪いな」

ゴカンは、悟空の手を振り解こうと、必死に藻掻いた。しかし、悟空との力の差は歴然で、どうする事も出来なかった。この時、また別の人物が悟空に近付いて来た。

「お義父さん。お久し振りです」

悟空の眼前に現れたのは、アイスだった。アイスは、ゴカンの叫び声が聞こえたので、特訓を中断して駆けつけた。以前の勝気なアイスとは打って変わり、今は妙にしおらしかった。

「久し振りだな。おめえと悟天の間に子供が生まれていたなんて、初めて知ったぞ」
「子供が生まれたのに、誰も祝いに来なかったから、もしかしたら悟天が地球に伝えてないんじゃないかと思っていたんですけど・・・。悟天に訊いても、何も答えてくれないし」
「そういう事か・・・。悟天の奴も仕方ねえな。それと、このゴカンは、躾がなってねえぞ。オラも子供の時は悪かったけど、こいつは酷過ぎっぞ」

ゴカンには年上を敬う気持ちが微塵も無く、気に入らない者は、例え祖父でも平気で攻撃する粗暴な子供だった。悟空は、ゴカンの将来に不安を感じずにはいられなかった。その不安は、母親のアイスも同様に抱いていた。

「この子は、トレーニングだけは真面目に取り組むんですけど、普段は親の言う事を余り聞かなくて。叱っても全然応えないし。ところで、今日は何しにいらっしゃったんですか?」
「何しにって・・・。あ!いけねえ!すっかり忘れてた」

悟空は、珍しいトレーニングの器具や、初めて会った孫のゴカンに気を取られ、ここに来た用件を忘れていた。悟空は、ゴカンをアイスに引き渡すと、レードと悟天を連れて来てもらうよう頼んだ。ゴカンを脇に抱えたアイスは、すぐに承諾し、二人を呼びに行った。そして、アイスは、レードと悟天を引き連れて戻って来た。

レードは、招かれざる客である悟空が来た事により、貴重なトレーニング時間を奪われたので、露骨に不快感を滲ませながら来た。一方、悟天は、悟空に目を背けながら近付いて来た。喧嘩別れして以来だから、悟空と会うのは、ばつが悪かった。こうして悟空は、ライバルと息子に久方ぶりに再会した。

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