悟空は、数年振りに悟天と再会した。悟天は、気が以前よりも上昇していたので、修行を続けているようだった。しかし、悟空と久し振りに会ったのに、悟天は少しも嬉しそうではなかった。
「久し振りだな、悟天。元気にしてたか?」
「うん・・・」
「どうした、悟天?あの時の事を、まだ怒ってるのか?おめえの気持ちを考えず、おめえをメンバーから外した事は、オラだって悪かったと思ってる。でも今は、おめえ達の力を借りる為に、わざわざここまで来たんだ。良い加減に機嫌を直せよ」
悟空は陽気に振舞ったが、悟天は打ち解けるどころか、目を合わせようとすらしなかった。しかし、これは怒っているからではなく、どう接して良いか分からないからであった。悟天は、これまで地球側との接触を避けていたのに、悟空が何の前触れも無く突然現れたので、心の準備が出来ていなかった。その為、悟天は気の利いた事一つ言えずに狼狽していた。しかし、そんな悟天に対し、アイスに抱えられているゴカンが無礼な発言をした。
「何してんだよ、父ちゃん!そんな奴、ぶっ飛ばしちゃえ!」
「ゴカン!何て事を言うの!お爺さんに謝りなさい!」
アイスは暴言を吐いた罰として、ゴカンの尻を何度も叩いた。ゴカンは悲鳴を上げたが、決して謝ろうとはしなかった。ゴカンは、子供なのに変にプライドが高く、謝るのは恥だと思っていた。
「何でか知らねえけど、随分嫌われちまったな」
「孫悟空。俺は、お前と違って忙しいんだ。与太話をしに来たのなら、とっとと帰れ。それとも俺と雌雄を決しに来たのか?」
「そんな怒るなよ、レード。こっちは大事な話があって来たんだからさ」
「大事な話?そう言えば、力を借りに来たとか言ってたな。場所を変えて話を聞こうか」
これ以上この場所を悟空に見せたくなかったレードは、別の場所に移動すると言い出した。悟空は即応し、悟天やアイスと共に出入口に向かった。レードは、悟空達の後に続こうとしたが、その前に側で突っ立っていたリシパを問い詰めた。
「こんな所で何をしている?器具の点検は、終わったのか?」
「も、申し訳ありません!す、すぐに再開します!」
リシパが慌てて近くの器具の方に走り去っていくのを尻目に、レードは悟空達の後に続いた。そして、外に出た悟空達は飛行し、レードの別邸の前で降り立った。レードの別邸は、悟空が以前訪れた本邸から近い場所にあり、本邸に劣らぬ豪華な邸だった。その応接室の中に入った悟空達は、全員がソファーに腰掛けた。
レード達四人が話を訊く体勢になった所で、これまでの経緯を悟空は話し始めた。レードは、地球に派遣した科学者達から悟空達の身の回りに起こった出来事を定期的に報告させていたが、本日起こった出来事までは聞いていなかった。死者が生き返り、その中に自分の父親も含まれていると知ったレードは、身を乗り出して話を聞き入っていた。
「生き返った連中の中には、とんでもなく強いサイボーグに改造された奴も居る。その強い奴を苦労して倒したとしても、すぐに復活させられるみてえなんだ。オラ達だけじゃ分が悪いから、おめえ達の力を借りてえんだ」
「力を借りたいか・・・。貴様、生き返った父上を俺に倒させるつもりか?」
「え!?そ、それは・・・」
レードの鋭い突っ込みに、悟空は言葉が詰まった。レードが悟空達に協力すれば、フリーザとレードが戦う展開も考えられる。悟空は、そこまで考えておらず、単純にレード達の協力を得られれば、ドクター・スカル側との戦力差が無くなるとだけ考えていた。しかし、改めて考えてみれば、子供に親を倒させるのは、確かに残酷な話だった。
「フリーザを倒すのに不都合があるなら、オラ達がやる。おめえは、その他の奴等を・・・」
「馬鹿め!目の前で父上が殺されるのを、俺に黙って見ていろと言うつもりか!?」
「まさかフリーザの居るドクター・スカル側に付いて、オラ達と戦うとでも?」
「それも悪くない。ジニア人の側に付いて戦えば、お前達を片付けられるし、褒美として銀河の一つか二つを貰えるかもしれない」
レードがドクター・スカル側に付けば、悟空達の勝利は絶望的となる。悟空は、最悪の展開を迎えるかもしれないと思い、意気消沈した。しかし、悟空が気落ちする様子を見て、レードは失笑した。
「冗談だ。誰がジニア人側に付くか。同盟を結ぶならまだしも、従属など絶対にしない。それよりも、あの父上が他の勢力に従属するなら、一族から除名されねばならない。そんな父上を自らの手で殺す事になるとしても、何の躊躇いも無い。むしろ喜んで排除する。そういう訳で、お前達に味方してやる。元々、そういう取り決めもあったしな」
「じゃあ力を貸してくれるんだな!?良かったー!やっぱオラの目に狂いは無かったな」
数多くの銀河を支配しているジニア人と、一つの銀河内のわずかな区域のみを支配するレードが、対等な立場で同盟を結ぶなどありえない。つまりレードがドクター・スカル側に付けば、それはジニア人に臣従する事を意味していた。帝王の一族としての誇りがあるレードは、自分が他者に従う事も、父親が他者に従う事も、絶対に許せなかった。
「最初に言った通り、今回は悟天の力も借りてえ。地球に居る仲間も、悟天に会うのを楽しみにしてるしな」
「分かった。準備を整え次第、俺と悟天が地球に行くから、お前は先に地球に帰れ」
「ああ。待ってるぞ」
悟空は、喜び勇んで別邸から出て行った。悟空が去った後、アイスは深い溜息を吐いた。
「はー、疲れた。慣れない事をすると疲れるわ」
「普段と違って、随分しおらしかったけど、やっぱり父さんが居たから?」
「当たり前でしょ。義父の前では誰だって緊張するわよ。しおらしくもなるわ」
「ふふふ・・・。普段もしおらしかったら良いのに」
「それって、どういう意味かしら?」
悟空が居なくなると、途端に悟天の口数が多くなった。表情も明るくなっていた。しばらく会わない内に、悟空と悟天の間には見えない大きな壁が出来ていた。
「なあ、爺ちゃん。俺も地球に行って良いだろ?俺も戦いたいんだ」
「お前は、まだ五才だ。実戦には早過ぎる」
「でも俺、超サイヤ人になれるんだぜ」
ゴカンは、日々のトレーニングで力が飛躍的に上昇していたので、早く実戦を経験したかった。そして、悟空と共に戦うのは嫌だが、自分が戦えば大活躍出来るという慢心もあった。しかし、レードは、ゴカンの参戦を認めなかった。
「超サイヤ人になれる程度では役に立たない。せめて超サイヤ人3か4位にならないとな。お前は、留守番していろ」
「ちぇっ、くそ爺」
恐れ知らずのゴカンは、悟空ばかりでなく、レードに対しても悪態を吐いた。ゴカンの無礼な物言いに対し、悟天はゴカンの頭を掴んで無理矢理下げさせた。
「申し訳ありません!レード様!」
「構わん。俺の後を継ぐ者ならば、従順よりも反抗的な方が頼もしい。良いか、ゴカン。いずれ存分に働いて貰うから、今回は母親と共に留守を守っていろ」
「え?私も行っては駄目なの?」
「当然だ。子供に母親が付き添ってやらないでどうする?」
レードは、アイスが母親である事を利用し、参戦を思い止まらせた。レードは、相変わらずアイスを危険な目に遭わせたくなかった。一方、前回戦えなかったアイスは、今回こそ戦いたいという思いがあったが、ゴカンに寂しい思いをさせる訳にはいかなかったので、自分の我儘を押し通そうとはしなかった。アイスの母性本能を利用したレードの作戦勝ちだった。
その後、レードと悟天は、アイスとゴカンに見送られて別邸を飛び出し、宇宙船を格納してある場所に向けて飛行した。そして、アイス達の姿が見えなくなると、レードは悟天の頭を殴った。悟天は殴られた箇所を手で押さえながら、レードに殴った真意を尋ねた。
「うぐっ!レ、レード様。何をするのですか?」
「子供の躾位、ちゃんとしておけ!この馬鹿が!」
先程は寛大な態度でゴカンの無礼を許したレードだったが、実際は腸が煮えくり返っていた。しかし、ゴカンを叱らなかった。アイスやゴカンには甘く、悟天には厳しいレードであった。
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