其の四十九 悟天の暴走

レードと悟天の協力を取り付ける事に成功した悟空は、意気揚々と地球に帰還した。悟空を乗せた宇宙船がカプセルコーポレーションの庭に着陸し、悟空が下船すると、そこに仲間達が群がってきた。仲間達は、カプセルコーポレーションの中で悟空の帰りを待ち侘びていた。

西の都の上空一帯もバトルフィールドが覆っているせいで、太陽の光が遮られていた。しかし、街灯が臨時に点灯されたので、サイヤ人の誰かが超サイヤ人になって光を発しないでも、バトルフィールドを見る事が出来た。それは悟空達と関わりない大勢の一般市民も同様だが、彼等は上空に浮かぶ謎の巨大な物体を見て、右往左往するばかりだった。

地球で待っていた仲間達は、悟空がレードと悟天を連れて帰ってくると期待していたので、帰りの船に悟空と操縦士しか乗っていなかった事に失望していた。

「随分と遅かったな。俺達が一向に攻めないから、敵の方が痺れを切らして外に飛び出してくると思っていたが、今の所は変化無しだ。どうやら敵は、是が非でも俺達を、あの中に入れたいようだ。ところで、貴様一人だけ帰ってきた所を見ると、レードや悟天の協力は得られなかったようだな」
「いや。あの二人を味方に引き入れる事には成功した。二人は準備してから来るってさ」

悟空がレード達の協力を取り付けたと知り、仲間達は一同に安堵した。そして、悟空達は、レード達が地球に来るのを待っていたが、そんな折、一台の小型飛行機が飛んで来て彼等の近くに降り立った。その飛行機の中から姿を現したのは、何とチチとビーデルだった。

「チチ、何でここに来たんだ?」
「悟空さ!悟天が地球に帰ってくるって大事な話を、なしてオラに伝えねえだ!?パンから電話で、悟空さが悟天を迎えに行ったと聞いたから、慌てて来たんじゃねえか!」

カプセルコーポレーション内で待っていたパンは、空いてる時間を利用して、家に電話で現状を報告していた。知らせを聞いたチチは、俄然元気になり、ビーデルを同行させて、急遽カプセルコーポレーションに駆け付けた。離れて暮らす我が子が久し振りに帰って来ると聞けば、母親が駆け付けるのも当然だった。

「悪い悪い。急いでたもんでな。悟天は、もうじき来るから安心してくれ。それよりも、面白え事を知ったぞ。実は悟天に子供が産まれたんだ。ゴカンっていう名前の男の子だ。生意気な奴だけど、強そうだったぞ」
「悟天に子供が!?そったら大事な事、なして悟天は今まで伝えてこなかっただ!?普通、出産前には親に報告するはずだべ!悟天は何を考えてるんだべか!?」

チチは、烈火の如く怒った。悟空や周りの者が宥めても、チチの怒りは収まりそうもなかった。このチチの怒りが、新たな騒動を引き起こすんじゃないかと悟空は懸念していた。

そんな騒動の最中に、レードと悟天を乗せた宇宙船が、カプセルコーポレーションの庭に着陸した。レード達が乗っている船は、かつて悟空がレードに譲ったジニア人の船だったが、改造されて一回り大きくなっていた。レードと悟天は、船から降りて周囲を見回した。これが悟天にとっては六年振りであり、レードにとっては初めて見る景色だった。

「これが地球か・・・。悪くない星だ。孫悟空達さえ居なければ、すぐにでも征服したい」
「止めて下さいよ。そんな怖い冗談を言うのは。でも、ここは何も変わっていない。懐かしい・・・」

悟天が感慨深げに西の都の町並みを眺めていると、二人の到着に気付いたチチが近付いて来て、いきなり悟天の頬を叩いた。悟天は無論、レードも不意の出来事に啞然としていた。

「悟天!おめえは何ちゅう親不孝者だべ!なして便り一つ寄越さねえだ!?子供が生まれたら、それを真っ先に親に報告するもんだべ!それだけじゃねえ!悟飯が敵に捕まり、悟空達が悟飯を助ける為に頑張っているっていうのに、おめえは何してるだ!恥ずかしいと思わねえだか!?皆に申し訳ねえと思わねえだか!?」
「うるさい!」

チチが出会い頭に怒鳴るものだから、つい悟天は怒鳴り返してしまった。チチと二人きりの時に怒られるのならまだしも、今は人の目がある。三十過ぎで、子供まで居る大人が、人前で親に叱られるのは、恥以外の何物でもなかった。未だに子供扱いする母親に、悟天は辟易していた。

悟天が地球の仲間達と距離を置くようになったのは、なにも悟空だけが原因ではなかった。悟天は、悟空やベジータのような年長者でもなければ、悟飯・ピッコロ・トランクスのような知恵や知識がある訳でもない。悟空達の中に居れば、悟天には発言権が無く、常に周りの指示に従って行動せざるを得なかった。若い内はそれでも良かったが、年齢を重ねる毎に、悟天はそれを不快に思うようになってきた。要は、周囲の大人と同じように振舞えないのが嫌だった。

しかし、惑星レードでは悟天を子供扱いする者は居ない。レードも含めて、誰もが悟天を一人の大人として接してくれる。それを悟天は心地良く感じ、惑星レードの方が地球より住み易いと感じるようになっていた。それなのに久し振りに地球に帰ってきた途端に子供扱いされたので、悟天の自尊心は深く傷つけられた。その結果、またもや悟天は親に反抗してしまった。

「これまで一度も連絡しなかったのは悪かったと思うけど、だからと言って、皆の前で叱らないでも良いじゃないか!少しは俺の立場も考えてくれよ!俺は、もう子供じゃないんだ!」

悟天が向きになって反論するものだから、チチは押し黙ってしまった。それでも怒りが収まらない悟天は、チチの側を離れてトランクスに近付き、頭上を指差しながら尋ねた。

「あの馬鹿でかい物体の中に、敵が居るんだろ?そして、側面にある穴から中に入れるんだろ?」
「あ、ああ。人数も揃った事だし、これから作戦を練・・・待て!悟天!」

悟天は、トランクスが話し終える前に頭上にあるバトルフィールドに向けて飛び上がり、側面の穴に入っていった。皆の面前で母親に叱られた事を恥と思った悟天は、その場に居辛くなり、無謀にも単身で敵の巣窟に乗り込んでしまった。悟天が地球に来る前からチチは腹を立てており、それが悪い結果を齎すのではないかと悟空は危惧していたが、奇しくも、それが現実のものとなってしまった。

「悟天の馬鹿野郎!何の考えも無しに一人で突撃しやがって!」
「ちっ。これからレードを交えて、じっくり作戦を練ろうとしたのに、悟天のせいで、それも出来なくなった。それでも、あいつを見殺しには出来まい。すぐに後を追うぞ!」
「待て!ベジータ!今から悟天の後を追っても追いつけない。作戦を練ってから突撃しよう。悟天だって、そう簡単にやられまい」

ピッコロは、悟天を心配していない訳ではなかったが、一人の身勝手な行動のせいで全体のチームワークが乱れ、本来なら勝てる戦いにも勝てなくなる事を恐れていた。

「あのバトルフィールドへの攻め方は、大きく分けて二つある。一つ目は、全員が同じ穴に入り、一丸となって中心部を目指すパターン。二つ目は、各自別々の穴に入り、それぞれ単独で中心部を目指すパターン。俺としては全員一緒に行動した方が無難だと思うが、レードはどう思う?お前の意見を聞いておきたい」

ピッコロは、レードに話を振った。頭脳明晰なレードだけに、皆が彼の言葉に注目した。

「あの中は迷路だと聞いている。全員一緒に行動し、正しい道を通れば良いが、間違った道を選んで行き止りに着けば、全員が引き返さねばならなくなり、敵に余分な時間を与える事になる。それに、あの中の各所には監視カメラが設置されていているだろう。全員が共に行動すれば、こちらの位置を敵は手に取るように分かり、その進路上に強い敵を大勢配置してくるだろう。逆に分散して動けば、各人の進行具合を敵は細かく追えなくなる。その方が戦略上、有利になるだろう」

悟空達が固まって移動すれば、その進行方向に強い敵を集中的に配置される可能性がある。それでも、このメンバーが一丸となって戦えば、倒せない敵は居ないだろう。しかし、強敵を倒したとしても、リバイバルマシーンで再び復活させられる。今回の戦いは、敵を倒すよりも、リバイバルマシーンを迅速に破壊する方が重要だから、その為には誰でも良いから、中心部に早く到着しなければならなかった。

「各人が別行動した方が良いのは、もう一つ理由がある。父上の始末は俺がする。他人に手出しされたくない。しかし、お前達と共に行動していれば、それも難しくなる」
「上等だ。俺もフリーザの始末を貴様に譲るつもりはない。奴は俺が殺す」
「それでは互いに公平を期すため、先に出会った方が倒すという事で構わないか?」
「良かろう。貴様には絶対に負けん」

ベジータとレードは、フリーザを巡って熱い火花を散らした。この二人が共に行動すれば、お互い足を引っ張るかもしれなかった。結局、各人が別々の方角から攻める事になった。話し合いが済んだ所で、悟空達は上空に飛び上がり、それぞれバトルフィールドの側面にある穴を選び、個別に中に入っていった。

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