レードの突然の物言いに、当然アイスは反発した。
「何言ってるのよ!何で私が戦っちゃいけないわけ!?魔神龍との戦いの時は、私が戦うのを認めてくれたじゃない!」
「あの時とは事情が違う。あの時は他の子供達が居たから、お前が死んでも我が一族の血脈を保つ事が出来た。しかし今は、お前しか俺の子供は生き残っていない。仮に俺が今度の戦いで死に、お前まで死んでしまったら、我が一族は断絶してしまう。それだけは絶対に避けねばならない」
事は自分達の一族の存続問題に関わるだけに、レードも簡単には引き下がらなかった。
「そういうわけだから、お前は惑星レードに残れ」
「嫌よ!そんなに一族の存続が大事なら、パパが留守番してればいいじゃない!」
「聞き分けのない事を言うんじゃない!娘が最前線で戦い、父親が安全な場所で高みの見物など出来るものか!」
レード親子の口論は、しばらく終わりそうになかった。側に居た悟空達は、彼等の論争に口を挟まなかったが、内心ではレードの方を応援していた。レードの力を借りるために惑星レードまで来たのに、肝心のレードが戦いに参加しないのでは、何のために来たのか分からないからである。
しかし、そんな悟空達の心中など一切お構いなしに、アイスは頑として戦いに行くと言って聞かなかった。一度こうと決めたら、意地でも押し通すのがアイスである。アイスの性格を熟知しているレードは、このままでは彼女を説き伏せるのは不可能と判断し、ある交換条件を出した。
「アイス。もし今度の戦いに参加しなかったら、お前が孫悟天と交際するのを認めてやっても良い」
「えっ!?本当に!?」
予期せぬレードの提案に、アイスの表情が変わった。この一ヶ月、レードはアイスに対し、敵対する悟空の息子である悟天に会いに行く事を決して許さなかった。以前のレードは、アイスを誰とも付き合わせないと固く心に決めていた。
ところが、他の子供が殺された時から、レードの考えは少しずつ変わり始めていた。アイスが誰かと結婚し、子供を生まなければ、いずれ一族の血脈は途絶えてしまう。只でさえ自分の気に入らない事は、絶対にしないアイスである。もしレードが、アイスの婿として相応しいと思う男性を何人か紹介しても、アイスは容赦なく全員を撥ねつけるだろう。そのため、例え自分が気に入らなくても、アイスが好む殿方なら、レードは二人を引き合わせる他なかった。
「・・・そういう事だったら、今回は戦いを諦めても良いわ」
流石のアイスも、この好条件を提示されれば、すんなりレードの指示に従った。あの分からず屋の父親が自分の意思を尊重してくれるなど、一生に一度あるかないかなので、アイスに迷いはなかった。レードとしても、娘に言い負かされる情けない父親の姿を、目の前の悟空達に見せるわけにはいかなかったので、無事に済んで安心した。レード親子の論争は、これで片が付いたかに見えたが、今度は悟天が黙っていられなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。当事者抜きで勝手に話を進めないでよ」
「何よ悟天。まさか私の事が嫌いなの?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど・・・。もう少し心の準備というものが・・・」
「そんなもの必要ないわ。お互い好きだから交際する。それで良いじゃない」
アイスの強引とも言える台詞に、悟天は唖然としてしまった。アイスは悟天が出会った、どんな女性よりも美人だし、性格は自由奔放だが、決して悪い子ではない。あの恐ろしい父親さえ居なければ、悟天がアイスを拒む理由は何処にも無かった。しかし、そうは言っても、今すぐ交際する気は無いが、それを言い出せる雰囲気ではなかった。そんな悟天の事情など全く意に介さず、ようやく交際出来ると信じているアイスは完全に舞い上がり、一人で張り切っていた。
「さ!交際すると決まったからには、早速デートに行くわよ。この惑星レードには、デートスポットが数多くあるの」
「え!?デートは、俺が戦いから帰ってからにすれば良いじゃない」
「悟天も戦いに行くつもりなの!?もし殺されてしまったら、残された私は、どうなるのよ!」
「皆が戦いに行くのに、俺一人こんな所でデートなんてしてられないよ!」
交際はまだしも、戦いまでは断念出来ない。悟天には引き下がれない理由があった。
「俺は今日まで必死に修行してきたんだ!戦いを放棄するなんて俺には出来ない!もし今回の戦いに行けないんだったら、俺は君と交際しない!」
悟天は勇気を出して、自分の意見を述べた。アイスの表情は一瞬で青ざめ、身体は小刻みに震え出した。そんなアイスを不憫に思ったレードは、悟天に近付いて彼の胸座を掴んだ。
「これ以上、話をややこしくするんじゃない!折角アイスを説き伏せたのに、また問題を蒸し返す気か!?お前が参戦しなくても、大勢に影響ない。交際させてやると言ってるんだから、ごちゃごちゃ言わずに、とっとと交際しろ!言っておくが、アイスを泣かせるような事をしたら、サイヤ人と地球人は皆殺しだ!」
レードの剣幕に萎縮した悟天は、渋々交際を承諾した。項垂れる悟天に対し、悟空が軽く肩を叩いた。
「そんなに気を落とさなくても、戦いの方はオラ達に任せ、おめえはここでデートしていれば良い。戦いは今回だけじゃない。今後、おめえの出番もきっとあるさ」
悟空は悟天を慰めて、彼の不満を和らげようとした。しかし、悟天は表情にこそ出さなかったが、この時、悟空に対して憤りを感じていた。悟天は悟空に慰めてもらいたいわけではなかった。それよりも悟空には、自分も参戦出来るようにレードやアイスに口添えして欲しかった。
悟天は、先日のジュオウ親衛隊との戦いでは、途中から置いてけぼりを喰らった。魔神龍との戦いでは、余り役に立てなかった。父や兄は大活躍していたのに対し、自分は出番が余り無かったので、悟天は悔しい思いをしていた。そういう経緯から、魔神龍戦後に悟天は秘密の特訓をし、次の戦いに備えていた。しかし、今回の戦いでは、自分だけ参戦すらさせてもらえず、気持ちが鬱屈していた。そして、悟空は自分の事を足手纏いに考えているのではないかと疑うようになっていた。
悟天の負の感情など、周りの誰一人として気付く事なく、物事は着々と進行していた。悟空達は捕まえた男から、現在ドクター・リブが居る星の場所を訊き出していた。それは西銀河にある星で、元々は無人の星だったそうである。ドクター・リブは、その星を本拠地とし、そこから各星に協力者達を派遣した。そして、派遣している協力者達と連絡を取り合い、必要に応じて指示を出しているという。
それを踏まえた上で、悟空達は今、何をすべきか話し合った。星を直接攻め滅ぼしているのは協力者達なので、まずは手分けして、協力者達を倒すという案の是非を話し合った。しかし、男の話によると、協力者の数は何百何千にも及び、その数は日を追う毎に増えているという。リブ・マシーンも常に製造されているので、一々協力者達を倒していったのでは、何時まで経ってもドクター・リブを倒せず、犠牲者の数が増えていく一方なので、この案は廃案となった。
次に、悟空達はドクター・リブから先に叩くという案の是非を話し合った。ドクター・リブを倒せば、彼からの指令が出なくなるので、協力者達は、どの星を攻めれば良いか分からず、侵略を止める可能性が高い。後は個別に協力者達を倒していけば、自ずと銀河系の平和を取り戻せるだろうという結論に至った。こうして悟空達は、ドクター・リブの居る星に向かう事となった。
かくして悟空達は、レードの用意した宇宙船に乗り込み、西銀河にあるドクター・リブの居る星に向けて出発した。一方、悟天はアイスとデートする事になった。アイスは悟天を色々な場所に案内したが、悟天は心からは楽しめなかった。
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