其の五十五 仕組まれた対戦

悟空達と甦った悪の戦士達による戦いは、既に中盤に差し掛かっていた。悟空の弟子であり、魔人ブウの生まれ変わりでもあるウーブは、これまで順調に勝ち続け、遂には元魔王であるダーブラが待ち構えている部屋の中に足を踏み入れた。ウーブと相対したダーブラは、目を大きく開き、邪悪な笑みを浮かべた。

「お前が来るのを待っていたぞ、ウーブ。いや、魔人ブウよ。お前自身は覚えていないかもしれないが、お前の前世である魔人ブウは、このダーブラ様を殺した。お前を倒し、積年の恨みを晴らしてやる」

魔界の王であったダーブラが死んだ後、地獄行きだと喜ぶだろうと判断した閻魔大王は、何と彼を天国行きにした。天国とは、生前に善行を重ねた人の魂が行く楽園とも呼べる場所であるが、ダーブラにとっては逆に苦痛の場所になるだろうと閻魔大王が考えたからである。しかし、ダーブラが天国で暴れるのを危惧した閻魔大王は、大界王星にいる戦士達に、ダーブラの監視を依頼した。ところが、そんな閻魔大王の目論見を、ダーブラは見抜いていた。

同じ死者であっても、肉体を持たないダーブラが、肉体を持つ戦士達に敵うはずがないので、ダーブラは改心した振りをして、監視をやり過ごそうとした。その演技には離れた所で監視していた戦士達どころか、ブルマやチチといった彼の側に居た女性陣ですら騙されたが、神龍までは騙せず、ダーブラは極悪人と見なされて生き返らなかった。

それ以降も、ダーブラは善人を装いながら、天国から脱出する機会を狙っていた。そんな折、ドクター・スカルが発明したリバイバルマシーンによって現世に甦ったダーブラは、すぐに本性を露にして、ドクター・スカルへの協力を誓った。また、ウーブが魔人ブウの生まれ変わりだと知らされ、ウーブに対して激しい憎悪の念を抱いた。

「ふっふっふっ・・・。まずは挨拶代わりだ」

ダーブラは魔法で槍を生成し、それをウーブに向けて投じた。しかし、ウーブは必要最小限の動きで、飛んでくる槍を避けた。躱された槍は、ウーブの後方にある壁に突き刺さった。

「ふっ。やはり人間に生まれ変わったせいで、不死身ではなくなったようだな。魔人ブウだったら、槍が体に突き刺さっても、平然としていたぞ」
「それがどうした?俺が不死身でないとしても、貴様を倒すのに何の支障も無い。今度は、こちらから行くぞ!」

ウーブは正面から飛び掛かり、真っ向勝負を挑んだ。ダーブラは笑いながら応じ、打撃戦が開始された。ウーブは、相手の力量を見定める為、懐に深く入り込まず、ある程度の距離を置いて慎重に戦おうとした。しかし、対するダーブラは、大きな体の割には俊敏で、ウーブとの距離を一気に縮めると、何度も打撃を浴びせた。スピードもパワーも、ダーブラはウーブを完全に圧倒していた。

ダーブラが予想以上に強いと判断したウーブは、魔人化して再び飛び掛かった。しかし、ダーブラの優位は変わらず、ウーブは手痛い一撃を喰らわされた。ダーブラの強さは、魔人化したウーブよりも上だった。それでもウーブは、必死に応戦して何度か攻撃を当ててダメージを与えたが、それ以上に攻撃を受けてダメージが酷かった。ウーブの動きは次第に鈍り、遂には止まってしまった。ダーブラは、早くも勝ち誇った。

「もう終わりか?ここに来るまでの戦いで、かなり力を使ったようだな。俺の必勝を期す為、事前に何人かの雑魚と戦わせていたが、その効果が出たようだ」
「な、何だと!?貴様との対戦を含めて、これまでの戦いは、全て偶然じゃなかったのか?」
「馬鹿め!このバトルフィールド内の通路や壁は、中央部で自由に操作が出来る。自分でルートを選んでいたつもりのようだが、実際は、この部屋に来るよう誘導されていたのだ」

ウーブは言葉を失った。これまでバトルフィールド内の迷路のように入り組んだ通路を、ウーブは自分の意思で選び、その途中で偶然遭遇した敵と戦ってきたつもりだったが、実は中央部の操作で用意された通路を走らされ、前もって決まっていた相手と戦わされていたと知ったからである。全ては悟空達の体力を少しでも消耗させ、最後に強敵と戦わせて皆殺しにし、勝利を磐石なものにしようと企んだドクター・スカルの策略であった。

ただし、ドクター・スカル側の戦士達全員が、希望通りの相手と戦える訳ではなかった。全員の希望通りの対戦を組んでいたら、悟空達の対戦数に偏りが生じるからである。その為、スカルボーグ達の中で強い者の希望を優先して組み合わせが決められていた。弱い者は、希望を聞いてもらえず、捨て駒にされていた。ダーブラの場合は、他にウーブと戦いたい者が居なかったせいもあるが、スカルボーグ達の中では強い方だったので、本人の意向が反映される形となった。

「大勢の敵を倒して、良い気になってるだろうが、こちらには何の痛手も無い。これまでの戦いで死んだ連中は、再び生き返らせる事が出来る。もし俺達の大半が死に、お前達が中央部に近付いても、通路を操作して、お前達を中央部から遠ざかるよう仕向け、その間に死んだ連中を生き返らせて、お前達が向かう部屋に再配置する事だって可能だ。これを続ける限り、俺達の勝利は確実だ。お前達の敗北は、ここに入った瞬間から決まっていたのだ」

ダーブラは勝利を確信し、大事な秘密を次々と話してしまった。ウーブは焦った様子で話を聞いていたが、ダーブラが話し終えた途端に鼻で笑った。

「何がおかしい?気でも触れたか?」
「そうじゃない。既に勝ったと思っている貴様を見て、つい笑ってしまっただけだ。確かに余力は貴様の方が上だが、まだ俺には魔力がある。このようにな」

ウーブの体が一瞬だけ光った。すると、ウーブの体が完治した。ウーブは魔力で体中の傷を治したのである。

「魔力で傷を治すとはな・・・。しかし、それだけで俺に勝てると思っているのか?」
「俺が出来るのは傷の治療だけじゃない。こんな事も可能だ。クッキーになれー!」

ウーブは、お菓子光線を放った。ダーブラは、かつてクッキーにされて食べられた嫌な記憶を思い出し、大慌てで飛び上がった。光線を避けられたが、ダーブラの表情が一変していた。好機と見たウーブは、勢い勇んで飛び掛かった。ダーブラは応戦したが、ウーブが手から何か出そうとする度に動揺した。光線ではなく単なる気功波でも、何が飛び出すかは発射されるまで分からない。光線を恐れ過ぎる余り、ダーブラの神経が過敏になり、先程までの余裕を失っていた。

「く、くそっ。奴の作戦だと分かっていても、体が過剰に反応してしまう。サードアイさえあれば、こんな事にはならないのに・・・」
「そうだ!良い事を思いついたぞ。貴様をお菓子に変えたら、食べずに放置しよう。そうすれば、貴様は死んだ事にならないから、リバイバルマシーンで復活しない」

ウーブの脅しに、ダーブラは心底震え上がった。只でさえダーブラは、お菓子光線にトラウマがあるのに、敗れても死なないなら、正に踏んだり蹴ったりである。

ウーブは、お菓子光線を出しまくった。ダーブラは、脇目も振らずに必死で逃げ回るため、ウーブに背後に回られた事に気付かなかった。そして、ダーブラが気付いた時には既に遅く、背後から至近距離で光線を浴びせられ、遂にクッキーに変えられた。この瞬間、ウーブの勝利が確定した。

「ふー、何とか勝てたか。今までで一番手強い敵だった。これからの戦いは、全て相手を殺さずに、お菓子に変える事にしよう。そうすれば、リバイバルマシーンでも復活しない。さあ、先を急ぐか」

ウーブは勝利の余韻に浸りながらも、新たに開かれた扉に向かって走ろうとした時、背後に気配を感じた。ウーブが後ろを振り返って見ると、そこには何とセルが立っていた。しかも、セルの右脇にはパンが抱えられていた。実は、パンが力尽きて眠っている間に、監視カメラを通して観ていたセルが近付き、パンを捕らえていた。

「お、お前は!?何でここに居るんだ?」
「ダーブラの話を聞いてなかったのか?通路は中央部の操作で、自由に変更出来ると。こちら側の都合で複雑にしたり、逆に簡単にする事も可能だ。ここまで言えば、私がここに来れた理由が分かるだろ?」

中央部に居るドクター・スカルは、ウーブとダーブラの会話を聞いていた。そして、ウーブのお菓子光線は、自分達にとって都合が悪いと判断し、彼を即座に除外すると決めた。そこでパンを捕らえたばかりのセルに簡易ルートを用意して、この部屋に来させていた。

「相手の術中に陥り、勝てる戦いを落とすとはな。わざわざ希望通りの対戦にしてやったのに、使えん奴め」

セルは、足元に転がっていたクッキーを踏み潰した。こうしてダーブラは、前回同様クッキーになった状態で死んだ。

「対戦相手をお菓子にして殺さずに戦闘不能に出来るお前は、私達にとって厄介な存在だ。ここでリタイアしてもらおうか」

セルは、ウーブに襲い掛かった。そして、ウーブが身構える前に一撃を浴びせて気絶させた。

「殺しはしない。殺したら人質としての価値が無くなるからな。ふっふっふっ・・・」

セルは、ウーブを左脇に抱えた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました