其の五十九 ベジータの新たな力

バトルフィールド内に登場したベビーと、その子供である二人のベビージュニア。そのベビージュニアの一人とピッコロが死闘を演じていた頃、別の部屋では、ベジータがもう一人のベビージュニアと戦っていた。ところが、このベビージュニアは、ベジータの父であるベジータ王の体に寄生していた為、父の体を傷付ける事に抵抗を感じるベジータは、手出しが出来なかった。

ベジータ王ベビージュニアに手を出せないベジータは、攻撃が当たらないよう部屋の中を必死に逃げ回っていた。しかし、さしものベジータでも、ベビージュニアの攻撃を全ては回避出来なかった。このベビージュニアは、事前にサイヤパワーを吸収していたので、ピッコロが戦っているベビージュニアよりもスピードが格段に優れていた。

「くっくっくっ・・・。いつまでそうしているつもりだ?そんな不甲斐無い戦い振りでは、父親が失望しているぞ」
「くそったれが!良い気になりやがって!王の体から貴様を引きずり出したら、すぐに殺してやる!」

ベジータは、口では強がっていたが、ベビージュニアを外に追い出す算段が付かなかった。十年程前、悟空がベジータの体からベビーを追い出せたのは、ベジータベビーが大猿になった状態の時に尻尾を吹き飛ばした結果、ベジータの体内で巨大化したベビーが、縮んでいくベジータの体に押し潰されそうになったからであり、大猿になっていない今の時点でベジータ王の尻尾を切り落としても、ベビーの時と同じ効果があるとは思えなかった。

ベビージュニアを外に追い出す方法が無いならば、ベジータ王ごとベビージュニアを倒すしか、この窮地を切り抜ける術が無い。だからと言って実の父親を殺すという非情な決断を、今のべジータが容易に下せるはずがなかった。ベジータが地球で生活する内に芽生えた優しさが、却ってベジータを苦しめるという皮肉な状況となっていた。

「お前を殺したら、次にお前の息子であるトランクスも殺してやる。いや、奴はフリーザが殺す予定だった。下手に手を出して、フリーザから恨まれるのは得策じゃない」
「フリーザがトランクスを殺すだと!?・・・そ、そうか!フリーザの奴、未来のトランクスに殺された恨みを、現代のトランクスを殺す事で晴らすつもりだった!こんな大事な事を、すっかり忘れていた!」

新技法で改造されたフリーザが、旧技法で改造されたスカルボーグ達よりも遥かに強いのは、想像に難くない。幾ら以前に比べて強くなったとはいえ、トランクスがフリーザを撃退するのは、不可能に近いと思われる。そして、この戦いにベジータが敗れれば、フリーザの魔の手からトランクスを守れなくなる。愛する我が子を守る為、父親を犠牲にしてでもベビージュニアを倒す覚悟を決めたベジータは、超サイヤ人4に変身した。

「フリーザを倒すまで俺は絶対に死なん!フリーザがトランクスの命を狙っているなら尚更だ!ここで敗れる訳にはいかない!親に手を掛ける事になるとしてもだ!」

迷いを断ち切ったベジータは、ようやく反撃に出た。これまで散々やられた恨みを晴らすかのように、ベジータ王ベビージュニアに何度も打撃を浴びせた。ベビージュニアも必死に応戦したが、ベジータの怒涛の勢いを止められなかった。形勢は一気に逆転した。

「ま、まさかベジータが、これほど強いとは・・・」
「王の体を乗っ取ったぐらいで俺に勝てると思っていたのか?馬鹿め!俺を怒らせただけだ!貴様だけは絶対に生きて帰さんぞ!王と俺、二人分の怒りを思い知れ!」

ベジータ相手の肉弾戦は不利だと判断したベジータ王ベビージュニアは、ベジータから少し距離を置き、必殺の超ギャリック砲を放った。ベジータもギャリック砲を出して即座に対抗した。双方の中間地点で二つのギャリック砲は激突したが、力が均衡していた為、膠着状態となった。

「ちっ。俺が競り負けるとは思えんが、この状態が続けば、エネルギーを無駄に消耗する。こんな戦いで力を使い切る訳にはいかん。手っ取り早く片付ける為には・・・止むを得ん。あれをするか」

この戦いを手短に終わらせる為、ベジータはギャリック砲を出しながら気を高め始めた。すると、ベジータの体が変化してきた。胸毛が胸を完全に覆い、上半身の毛の色が全て赤から茶色に染まり、瞳の色が赤になった。何とベジータは、超サイヤ人5に変身した。老いの為に悟空より大分遅れたが、ベジータも厳しい特訓の末に超サイヤ人5に変身可能となっていた。

ベジータの本音を言えば、フリーザと戦うまで奥の手である超サイヤ人5を隠しておきたかった。その為、超サイヤ人4の状態でベジータ王ベビージュニアを倒したかった。しかし、フリーザと戦えるだけのエネルギーを残しておく為に、止むを得ず超サイヤ人5を披露する羽目になってしまった。

中央部の部屋で戦いを観戦していたフリーザは、超サイヤ人5となったベジータに着目していた。これまでは余裕の表情で観戦していたが、もう笑みは無かった。フリーザに警戒心を抱かせるほど今のベジータの強さは際立っていた。

ベジータが超サイヤ人5になったので、必然的にギャリック砲の勢いが増し、超ギャリック砲が押されてきた。それでもベジータ王ベビージュニアは必死に抵抗したが、遂にギャリック砲を喰らって大の字に倒れた。大ダメージを受けたベジータ王の体は、戦闘不能となっていた。

ベビージュニアは、ベジータ王の体から外に飛び出し、ベジータの体にある傷口から体内に侵入し、今度はベジータの体を支配しようと考えた。しかし、ベビージュニアの企みを見抜いていたベジータは、エネルギー波を出す体勢になって待ち構えていた。そして、液状化したベビージュニアが体外に出た瞬間にエネルギー波を放ち、ベビージュニアを消滅させた。

ようやく憎き敵を倒したので、ベジータは変身を解き、倒れているベジータ王の元に駆け寄った。

「王よ!俺が分かるか?ベジータだ!しっかりしろ!」

ベジータ王は、まだ辛うじて生きていたが、瀕死の重傷を負って死ぬ間際だった。しかし、意識はあったので、最後の力を振り絞って口を開いた。親と子が、およそ六十年ぶりに再会した。

「ベ、ベジータよ。お前が地球で活躍している事は知っていた。お前がこんなに強くなって、俺は父として嬉しい」
「らしくない事を言うな。それに、俺は強くない。無力だ。だから王を助けられなかった。どうせ助けられないなら、すぐに超サイヤ人5になって、一刻も早く王を楽にさせてやるべきだった」

ベジータは、自らの手で父親に深手を負わせた事を恥じ、自責の念に駆られていた。そんなベジータを見て、ベジータ王は驚いていた。ベジータ王が知る少年時代のベジータは、残忍な性格で、肉親の命すら軽んじていた。子供の頃の非道なベジータと、内面も外見も大きく変わった今のベジータが、同一人物だとベジータ王は思い難かった。

ベジータ王には、もう一つ驚いた点があった。ベジータが言った「超サイヤ人5」である。ベジータ王は、ベビージュニアに操られている際にも記憶があり、ベジータの体の変化を見て、これが例の超サイヤ人ではないかと薄々感づいていた。しかし、超サイヤ人には少なくとも五種類の変身があると知り、流石に仰天せざるを得なかった。

「超サイヤ人5だと!?超サイヤ人には、そんなに種類があるのか?俺はサイヤ人の王だが、超サイヤ人に複数の種類がある事を初めて知ったぞ」
「知らなくて当然だ。王が生きていた時代では、誰も超サイヤ人になれなかったからな。それに、超サイヤ人の種類についての言い伝えも無かった」

ベジータ王が知る超サイヤ人の情報は、千年に一人現れるサイヤ人で、どんな天才も超えられない壁を超えられるといった程度である。死んで地獄に居た時も、ベジータが超サイヤ人になった事を聞いた位で、どんな姿なのか見ていなかった。

「本来なら俺が最初に超サイヤ人になるべきだったが、カカロットに先を越された」
「その者の話も聞いている。下級戦士でありながら、超エリートであるお前以上の力を得たと。生まれた時の戦士の素質の検査が間違っていたのか?」
「いや。検査が間違っていたんじゃない。カカロットが俺以上に努力したからだ。間違っているとすれば、誕生時の検査だけで、その者の将来の可能性を判断する事だ」

昔はベジータ王同様、ベジータも検査だけで個々のサイヤ人の将来性を判断出来ると信じていた。しかし、悟空と出会い、検査だけでは分からない事が多くあると思い知った。

「お前は随分変わった。それがお前の選んだ道なら、俺が言う事は何も無い」
「どんなに時が経っても、フリーザへの恨みだけは変わらず持ち続けている。必ずフリーザを倒す。そして、王を生き返らせて俺と対決させるように仕向けたドクター・スカルもな」
「フリーザを倒すか・・・。お前なら出来るかもしれんな。期待しているぞ。我が子よ・・・」

ベジータ王は、微笑みながら息絶えた。二回目の死ではあったが、一回目の無念の横死と違い、息子に看取られての穏やかな最期だった。

ベジータは、しばらくベジータ王の死に顔を眺めていたが、やがて開かれた扉を通り、先へと進んだ。全サイヤ人の敵であるフリーザと、親子間で骨肉の争いをするように仕向けたドクター・スカルを、自分の手で倒す事が父親に対する最大の供養であり、唯一の償いだと信じていた。打倒フリーザへの思いを一層強くし、まだ見ぬドクター・スカルに激しい憤りを感じていた。

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