其の六 ドクター・リブ登場

銀河系の支配を目論むドクター・リブを倒すため、悟空達はレードの宇宙船に乗り、ドクター・リブが居る星に向かっていた。その道中、悟空達は船内の一室で、今回は参加出来なかった悟天について話し合っていた。

「それにしても、悟天には可哀想な事をしましたね。あんなに本人は戦いたがっていたのに、置き去りにしてしまうなんて」
「うーん。でも、それは仕方なかったんじゃねえか?あの時は、ああでもしないと、場が収まらなかった。また次の機会があるだろうから、悟天には、その時に戦ってもらえば、それで気が済むだろう」

今の悟空の気持ちは、悟天よりもドクター・リブに向けられていた。そのため、悟天には次回に活躍する機会を与えれば、それで彼の機嫌が治まるだろうと軽く考えていた。

一方、別の部屋では、レードが彼に従う兵達と話し合っていた。兵達の中には、最近のレードの行動に疑問視する者が多かった。

「レード様。幾ら事情があるとはいえ、最近、孫悟空達と連み過ぎなんじゃないですか?あいつ等は元々、レード様の敵であるばかりか、親兄弟の仇でもあるんですよ。もう少し行動を慎まれた方が・・・」

レードは、意見を述べた兵を睨み付けた。睨まれた兵は、直後に萎縮した。父親のフリーザであれば、気に入らない者は、自分に仕える兵ですら平気で殺していた。一方のレードは、気に入らない者を、すぐに殺したりはしなかった。

また、レードの親兄弟は、確かに悟空達によって倒されているが、レードが一度も会った事がない者達ばかりである。レードにとって悟空達は、将来倒すべき敵ではあるが、仇として憎む対象ではなかった。

「お前の言い分も分かるが、まずはジニア人達を倒すのが先決だ。俺の力だけでは、全銀河を手中に収めんとするジニア人達に歯が立つまい。だからこそ、今は孫悟空達と協力する必要がある。ジニア人達を倒した後は、当然孫悟空達も倒す」

ほとんど赤の他人と言っても良い親兄弟とは違い、自身の子供達とは面識があり、レードは才能がないからという理由で彼等を嫌ってはいなかった。そんな子供達を殺したドクター・リブ擁するジニア人の方が、レードにとって悟空達より遥かに憎い存在だった。

「それでは、アイスお嬢様と交際を開始した孫悟天は、どうするのですか?もし奴も倒してしまったら、お嬢様が悲しまれるでしょう。場合によっては、レード様と対立するかもしれません」
「孫悟天については別の考えがある。まあ俺に任せておけ」

こうして双方、それぞれ思惑を抱えながら、宇宙船は目指す星へと向かっていた。

惑星レードを発ってから五日後。遂に悟空達を乗せた宇宙船は、目的の星に着陸した。船にはレードの兵達だけを残し、悟空達はレードや、道案内のために連れて来た、捕まえた男と共に下船した。そこで彼等が目にした光景は、小規模ながら複数の建物が立ち並ぶ町だった。この光景を訝しんだピッコロは、男に質問した。

「おい!この星は、お前達が来る前までは、無人の星じゃなかったのか?それなのに、何故この星には町があるんだ?本当にドクター・リブは、この星に居るのか?」

ピッコロは、男を全く信用していなかった。其の場凌ぎの噓で違う星に案内し、その間にドクター・リブを逃がす時間稼ぎをしたのではないかと疑っていた。

「ここは銀河系を支配するための拠点となる星だ。ドクター・リブや、その協力者達が居住する建物があってもおかしくなかろう。それに、ここにある建物は、ジニア人の科学力によって、小さくして持ち運ぶ事が可能となっている」
「ホイポイカプセルのようなものか・・・。ジニア人の頭脳を使えば、似たような物を作るのは容易いという事か」

悟空達が改めて建物を見回してみると、どの建物も、これまで誰も見た事がない建築様式だった。それ等が銀河系外の建物だと考えると、男の言う事は、あながち嘘ではなさそうだった。今度は悟飯が尋ねた。

「それで、ドクター・リブは何処に居るんだ?奴の家に居るのか?」
「さあな。家に居るいるかもしれないし、工場に居る場合だってある。ほれ。あそこに見えるのが、その工場だ」

男が顎で指した先には、確かに工場があった。そして、工場は、町から少し離れた所にあった。しかも工場からは、数多くの小さな気が感じられた。悟空達は工場を調べる価値があると判断し、ピッコロが男を脇に抱え、悟空達全員で工場に向けて飛行した。すると突然、工場の中から百体を優に超すリブマシーンが飛び出し、悟空達の方に向かって来た。しかし、悟空達は慌てず騒がず、すぐさま臨戦態勢になった。

悟空達とリブマシーンの群れによる戦闘が開始された。戦闘は瞬く間に混戦状態となり、ピッコロは男を放り出して戦っていた。男は両腕しか縛られておらず、足が自由だった。そのため、悟空達が戦っている間に、男は何処かに走り去った。しかし、悟空達はリブマシーンに気を取られていたため、誰一人として男の逃亡には気付かなかった。

男が向かった先は、町や工場から更に離れた所にある、ドクター・リブの基地だった。ドクター・リブは、銀河侵略のための作戦会議や、銀河中に散らばった協力者達との交信、時には惑星ジニアとの連絡を取るために、一日の大半を基地内で過ごしていた。男は、その事を知っていたが、悟空達には伝えなかった。

基地の中に入った男は、奥の個室にいるドクター・リブと面会した。ドクター・リブは、白衣を着ており、若い研究員のような外見だったが、実際の年齢は五十を越していた。だからと言って、ドクター・リブは、サイヤ人のように若い期間が長いというわけではなく、青年期に受けた手術によって歳を取らない体になっていた。ドクター・リブは、回転椅子に腰掛け、手前にある机の上に両肘を付いていた。また、ドクター・リブの背後の壁には、複数のモニターが設置されていた。

「ドクター・リブ。只今、戻りました」
「ふん。敵に捕まりながら、よく逃げられたな」
「は、はい。奴等がリブマシーンと戦っている間に、逃げ出す事が出来ました。私を逃がすために、工場にあったリブマシーンを奴等に向かわせたんですよね?」
「ふっ。お前を逃がすためか・・・」

ドクター・リブは、机の引き出しから拳銃を取り出し、銃口を男に向けた。

「ド、ドクター・リブ!?な、何を・・・」
「敵を招いておきながら、恥ずかし気もなく、よく俺の目の前に出てこれたな。工場に居る者に指示を出して、リブマシーンを奴等に向かわせたのは、お前を助けるためではない。侵入者を排除するためだ。死ね」

男は死を覚悟した。しかし、ドクター・リブは引き金を引かずに、銃を元の机の引き出しの中に戻した。

「ドクター・リブ?な、何故・・・?」
「敵に情報を教えるような裏切り者は、本来なら問答無用で処刑だ。しかし、俺達には一つの銀河を一年以内に征服するノルマがある。そのためには一人でも多くの協力者が必要だ。今回だけは許してやる。だが、次に同じ事をすれば、今度こそ引き金を引く。それを肝に銘じておけ」
「は、はい。以後、気を付けます」

男の一件を済ますと、ドクター・リブは回転椅子を回して後ろに振り返り、背後にあるモニターを観た。そして、その内の九台のモニターには、悟空達が戦っている様子が映し出されていた。実は、この星の周囲には、星の内外を監視するための人工衛星が何百台も打ち上げられており、そこから基地内のモニターに映像を送っていた。

「何故この銀河には、こんなに強い奴等が居るんだ?これまで征服してきた銀河には、大して強い敵は居なかったのに・・・。とりあえず工場にあるリブマシーンを全て出動させたが、お前の目から見て、それで奴等に勝てると思うか?」

ドクター・リブは、まだ部屋の中に居て、同じくモニターを観ていた男に尋ねた。

「恐らく無理でしょう。奴等が戦っている所を陰で観ていましたが、一人一人が、とんでもない強さの持ち主です。リブマシーンが何体あっても奴等を倒すのは不可能だと思います」
「そうか。そんなに強いのか・・・。流石にまずいな」

戦局は悟空達が終始優勢だった。リブマシーンとの戦いは、これが初めてではなかったし、何よりレードの科学者達がリブマシーンを隅々まで分析し、ボディの何処が比較的弱いのかを、出発前の悟空達に伝えていたのが大きかった。そのため、悟空達にとってはリブマシーンを倒すのが、苦ではなかった。

次第に悟空達は、リブマシーンの動きのパターンまで読めるようになり、攻撃を受ける事はなくなった。四方をリブマシーンに囲まれても、落ち着いて対処出来た。リブマシーンは次々と破壊され、残骸が至る所に散らばっていた。

しかし、唯一人、悟空達の中では最も経験の浅いパンだけは、リブマシーンを相手に苦戦を強いられていた。パンは周りに助けられながら戦っていたが、それでも、これまで何度も手痛い打撃を受けていた。

「ああもう!敵の数が多過ぎるわよ!こうなったら、超サイヤ人になるしかないわ!」

パンは戦闘中、超サイヤ人に変身して戦うべきかどうかで悩んでいた。悟空達は、この星に到着する前に、戦闘になった場合を想定しての打ち合わせをしていた。その際、強敵が出るまでは、エネルギー温存のために変身を控える事で、一同合意していた。しかし、パンにとっては、リブマシーンこそが強敵だったので、迷った末に変身する事にした。

パンは、周りにいるリブマシーンとの距離を測りながら気を高め、超サイヤ人に変身した。ところが、それをモニター越しに観ていたドクター・リブは、驚きの声を上げた。

「あの逆立った金髪!黄金色のオーラ!間違いない!あれは超サイヤ人!とうの昔に滅んだと思われた、あの伝説の最強戦士の一族の血を受け継ぐ者が、こんな銀河に居たなんて・・・。そうすると、他の連中も同じくサイヤ人か!?・・・どうりで強いわけだ。この事を、あの女が知ったら、さぞかし喜ぶだろうな。とりあえず知らせておくか」

ドクター・リブは、机の上にある通信機を使って、惑星ジニアにサイヤ人発見の報を送信した。

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