其の六十 父の遺言

ベジータとピッコロがベビーの子供であるベビージュニアと戦っていた頃、悟空は超サイヤ人4に変身してベビーと戦っていた。現在のベビーは、悟空の父であるバーダックに寄生してバーダックベビーと化し、更に他のスカルボーグ達から悟空に対する恨みのエネルギーを吸収していたので、相当なパワーの持ち主となっていた。

悟空は、父親と戦う事に初めこそ戸惑いを感じていたが、バトルフィールド内の別の場所で戦っている仲間達や、何より惑星ジニアで過酷な仕打ちに苦しんでいる悟飯の事を思えば、こんな所で足踏みする訳にはいかないと割り切っていた。悟空が戦いに集中すると、バーダックベビーは次第に劣勢となっていた。

ところが、この戦いを中央部で観戦していたドクター・スカルは、いざという時の為に用意していた秘密兵器の作動ボタンを押した。次の瞬間、悟空とベビーが戦っている部屋の天井の一部が開き、中から衛星受信アンテナに似た機械が出てきた。そして、その機械からバーダックベビーに向けて光線が発射された。光線を全身に浴びたバーダックベビーは、大猿と化した。この機械は、ドクター・スカルが彼の協力者に命じて造らせた超ブルーツ波発生装置だった。

「ふはははは・・・!これで一気に形勢逆転だな!」
「なるほどな。この部屋だけ妙に広いと思っていたが、お前が大猿になって戦えるようにする為だったのか・・・」
「そうだ。流石のお前でも今の俺には勝てまい」
「勝てるさ。どうやらお前は、前回敗れた時と同じ失敗をしたようだ」

バーダックベビーが大猿となって急激に力を増した事は、疑いようもなかった。しかし、ベビーが巨大化した事は、悟空にとって都合が良かった。より強い相手と戦えるからであるが、それ以外にも理由があった。

バーダックベビーは、凄まじい勢いで悟空に襲い掛かってきた。巨大な拳で殴りかかったり、大きな足で踏みつけようとしたり、尻尾を使って払い落とそうとした。対する悟空は、巧みなフットワークで全ての攻撃を回避した。しかし、避けるのが精一杯で反撃までには至らなかった。

「ふはははは・・・!どうした孫悟空?逃げてばかりでは勝てんぞ」
「ふっ。そうだな。それじゃあ少しだけ本気になってやるか」

悟空は、動きを止めて気を急激に高め、超サイヤ人5に変身した。超サイヤ人5となった悟空の凄まじい気に、バーダックベビーは圧倒された。

「ば、馬鹿な!?もう一段階変身があったなんて・・・」
「悪い悪い。ガッカリさせちまって。お前が喜んでたから、もう少し調子付かせようかとも思ったけど、ダラダラと遊んでる訳にもいかないからな。とっとと終わらせてもらうぜ」

悟空は、飛び上がってバーダックベビーの左頬を蹴った。続いて尻餅をついたバーダックベビーの背中に回りこんで尻尾を抱え、体ごと振り回した。バーダックベビーは、放り投げられて壁に激突したが、その時に尻尾が根元から千切れていた。悟空の力が強過ぎた為に尻尾が耐え切れなかった。

尻尾を失ったバーダックベビーは、体が縮小を始め、元の人間の体に戻ろうとしていた。しかし、バーダックの体が縮小する過程で、バーダックの体内で巨大化していたベビーが圧縮されそうになった為にバーダックの体外へと脱出した。遂に姿を現したベビーに対し、悟空は笑いながら話し掛けた。

「ベビー、残念だったな。もうお前は、お仕舞いだ。最後に礼だけ言っておく。お前のお陰で、俺は父ちゃんと会えた」

バーダックの体に寄生し、大猿となった状態でも勝てなかったベビーが、生身の体で悟空に勝てるはずがなかった。ベビーは、散々に打ち据えられ、最後は悟空のかめはめ波で肉片一つ残さずに消滅した。ベビーが死ぬと、部屋の奥にあった扉が開かれ、悟空は変身を解いた。しかし、悟空は、すぐに先へ進もうとはせず、倒れているバーダックを抱き起こした。

「父ちゃん。オラが分かるか?カカロットだ」

バーダックは、無傷ではなかったが、命に別状はなかった。悟空もそれほど心配していなかった。やがて目を覚ましたバーダックは、ゆっくりと立ち上がり、悟空の顔を直視した。悟空とバーダックの親子対面が、ようやく実現した。悟空の目から見たバーダックは、厳しさと誇りを持ち、威厳のある男だった。バーダックの目から見た悟空は、自信と慈愛に満ち溢れ、優しさが滲み出ている男だった。二人とも一言も喋らず、しばらく見つめ合っていた。

是が非でもバーダックに会いたいと思っていた悟空だが、いざ本人を目の前にすると、どう接すれば良いか分からなかった。悟空は、バーダックが生きていた頃のサイヤ人が、どういう事をしてきたのかを知っている。星を次々と侵略し、大勢の人々を殺してきた時の話を訊きたいと思うはずがなかった。また、生まれてすぐ地球に送られた悟空の様子を詳しく知っているとも思えなかった。結局、何も訊く事を思いつかなかった。

目の前にいる相手と、どう接すれば良いか分からないのは、バーダックも同じだった。バーダックが死んで地獄に居る頃、現世に生きる息子の武勇伝を度々耳にした。サイヤ人の超エリートであるベジータと対等に渡り合い、サイヤ人の仇敵であるフリーザに勝ち、他にも数多くの強敵を打ち破ってきた。そんな凄すぎる我が子と自分とでは、どう見ても釣り合わない。息子と比べると自分が如何に小さな人間であるかを痛感させられ、肩身が狭かった。

しかし、流石に何時までも黙っている訳にはいかないので、バーダックは気恥ずかしそうに話し掛けた。

「大きくなったな、カカロットよ。そして、強くなった。生まれた時は、戦闘力がたったの二しかなかったお前が、よくぞフリーザを倒してくれた。俺は、お前を誇りに思う」
「オラが生まれた時って、そんなに弱かったのか・・・。でも、お陰で地球に来れた。生まれた時の強さなんて大した問題じゃねえ。大事なのは、その後の人生で、どれだけ強くなれるかだ」
「そう!正にその通りだ!」

悟空の言葉に、バーダックは大きく頷いた。生まれは下級戦士でも、その後の努力次第でエリートを超える力を得られる事を、バーダック自身が経験則から知っていた。

「父ちゃん。この先は、オラと一緒に行動してくれ。どんな敵が現れても、オラが父ちゃんの事を守ってやる。そして、ここから出たら、オラの仲間を紹介すっぞ。良い奴ばっかだから、父ちゃんの事を歓迎してくれるぞ」

悟空は、バーダックを自分の家族や友人に会わせたかった。しかし、バーダックは、浮かない顔をしていた。そして、自らの手で自分の左胸を貫き、血を吐いて倒れた。悟空は、目の前で起こった予想外の出来事に驚き、呆然と立ち尽くしていた。やがて正気に取り戻し、跪いてバーダックに話し掛けた。

「な、何て事をするんだ!助かった命を、何で自ら捨てようとするんだ!?」
「お、俺は、遥か昔に死んだ人間だ。この時代に存在すべき人間ではない。そ、それに、ここは敵地だ。俺の力では、お前の助けにはならない。むしろ足手纏いになるだけだ。お前の迷惑にならないよう、このまま死なせてくれ・・・」

バーダックは、自分の存在が悟空の足枷になる事を危惧していた。そこで自ら命を絶つ事で、悟空が自分の事を気にせずに存分に戦って欲しかった。

「聞け、カカロット。俄かには信じられないかもしれないが、俺は未来を断片的に見る事が出来る。俺は以前から未来のお前の姿を見てきた。そして、生き返った直後に見た未来は、お前が戦っている場面だった。対戦相手は容姿から判断して、おそらくお前の息子。しかも、その戦いは只の戦いではない。あれは凄惨な殺し合いだった」
「オ、オラが悟飯か悟天と殺し合いをするだって!?そ、そんな馬鹿な!?」

やがてバーダックは、悟空に看取られながら死んでいった。一緒に居られたのは短い時間だったが、息子の為に躊躇いなく自らの命を絶ったバーダックに、悟空は父親としての威厳を見た気がした。これまで色んな人間と出会い、その生き様を見てきた悟空だが、バーダックほど己に厳しい人に出会った事はなかった。

悟空は、バーダックの死体をその場に残し、開かれた扉を潜り抜けた。そして、通路を走りながら、父の最後の言葉を反芻していた。悟飯は遠く離れた星で酷い仕打ちに苦しんでいるが、未だ救出に行けない自分を恨んでいるとは思えない。悟天とは関係が悪化しているが、お互い相手を殺したいほど憎み合ってる訳ではない。バーダックが嘘を言う人間とは思いたくないが、自分が息子と殺し合いをするとは想像すら出来なかった。

一方、別の部屋では、レードと超十七号の戦いが決着した。気功波を全身で吸収する超十七号に対し、レードは、肉弾戦に持ち込んで優勢に戦いを進め、拳で超十七号の体を貫いた。そして、大ダメージを負って活動停止となった超十七号に止めのエネルギー波を放って消滅させた。戦闘終了後に部屋の奥にある扉が開いたので、すぐに先へと進んだ。

他方、中央部では、ピッコロを連れて戻ってきたセルがモニターを見ながらフリーザに話し掛けた。

「ベビーや十七号まで敗れたか・・・。残ったのは、私達二人だけだ。フリーザよ。孫悟空とは私がやる。その代わり、他の連中は全て譲ってやろう」
「ふん。一番美味しい所を独り占めにする気かい?まあ良いさ。僕は恨みさえ晴らせれば、後はどうなろうと構いはしないからね。あいつ等に強くなった僕の力を見せつけてやる」

フリーザとセルは、中央部の部屋を出て、それぞれ割り当てられた部屋へと向かった。バトルフィールド内の戦いも、いよいよ大詰め。遂に悟空達と二大巨悪との戦いが始まろうとしていた。

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