憎き敵ベビーを撃破し、父との別れを経た悟空は、バトルフィールド内の通路を走り、新たな部屋の中に入った。そして、その部屋の中には、セルが待ち構えていた。セルは、腕組をしたまま、悟空に向けて笑みを浮かべていた。
「待っていたぞ、孫悟空」
「セル。おめえが出てきたという事は、いよいよ大詰めか。ドクター・スカルが居る部屋に着くのも時間の問題だな」
「ふっふっふっ・・・。そうではない。ここが終着点だ。お前は、ここで死ぬ」
「大した自信だな。おめえとなら、オラも本気で戦えそうだ」
これまで戦ってきたスカルボーグ達とは違い、セルからは気を感じられた。そして、まだ気を抑えているとはいえ、セルが途方もない力を持っている事を、悟空は見抜いていた。これまで戦ってきたスカルボーグ達より遥かに手強い相手になりそうなので、悟空は興奮を抑えるのに必至だった。
悟空は、いきなり超サイヤ人5に変身した。持てる力を全て出して戦わざるを得ない相手だと判断したからである。セルも気を一気に開放した。二人は睨み合った後、悟空の方からセルに飛び掛かり、両者の間で激しい攻防戦が繰り広げられた。
一方、フリーザの居る部屋には、傷ついたトランクスが足を踏み入れていた。現代のトランクスがフリーザを見るのは、この時が初めてなので、外見だけで判断すると、レードと見間違えそうだった。しかし、フリーザの巨大で邪悪な気は、レードのものとは明らかに違うので、トランクスには容易に判別出来た。
「お前がフリーザか?・・・なるほど。確かにレードにそっくりだ」
「待っていたよ、トランクス。君が弱過ぎるから、ここにたどり着く前に殺されるんじゃないかと冷や冷やしたよ。でも、ここまで来れてよかった。これでようやく復讐を果たせる」
初対面の相手に復讐の対象にされたトランクスは、最初こそ意味が分からなかったが、すぐに思い当たった。
「未来から来た俺は、フリーザを倒していたのか・・・。しかし、残念だったな。同じトランクスでも、未来と今の俺は同じではない。未来の俺を倒さない限り、本当の意味で、お前の復讐は果たされないだろう」
未来からトランクスがタイムマシンに乗って現代に来た時点で、別の未来が生じ、二人のトランクスは別々の人生を歩む事になった。仮にフリーザが今のトランクスを倒しても、過去にフリーザを殺したトランクスとは別人だから、フリーザの復讐が果たされた事にはならない。そう考えたトランクスだが、フリーザの執念深さは、トランクスの想像を遥かに超えていた。
「そんな事は知ってるさ。だからドクター・スカルにお願いしたんだ。お前達を皆殺しにしたら、タイムマシーンを造ってくれってね。それで僕は未来に行って、未来のお前を殺す」
「何!?な、何て奴だ・・・。そこまでしてでも未来の俺を殺したいのか?」
「そうだ。だが、この時代のお前も許しはしない。だって、同じトランクスだからね。簡単には殺さない。じわじわと嬲り殺しにしてやる。恨むんなら、未来のお前を恨むんだな」
フリーザの凄まじい執念に、トランクスは圧倒された。そして、トランクスが気後れしている間に、フリーザは一気に飛び込んできて、トランクスに頭突きを喰らわせた。トランクスは、後方に吹っ飛ばされて壁に激突し、血を吐いて倒れた。
「くっくっくっ・・・。その気になれば、今の一撃で殺せた。でも、それじゃあ僕の気は晴れない。たっぷりと生き地獄を味わわせてやる」
フリーザは、不気味な笑みを浮かべながら、トランクスに歩み寄った。対するトランクスは、気力を振り絞って立ち上がると、超サイヤ人4に変身した。
「俺は誇り高きベジータの息子トランクスだ!簡単にやられはしない!勝てないまでも、せめて一矢報いてやる!」
トランクスは、今の自分ではフリーザに勝てない事が分かっていた。この戦いで死ぬ事も覚悟していた。トランクスが考えていたのは、フリーザに少しでも多くの傷を負わせ、後に戦うベジータや他の仲間達の負担を軽くする事だった。
ところが、トランクスが決死の突撃を試みようとした時、悟天が部屋の中に入ってきた。悟天に気付いたトランクスとフリーザは、揃って悟天の方を振り向いた。結果として戦闘が中断されたので、悟天は、トランクスのピンチを救った形になったが、タイミングを見計らって部屋の中に入ったのではなく、全くの偶然だった。
「うへえ・・・。話には聞いてたけど、本当にレード様にそっくりだ。でも、何で気を感じるんだろう?これまで戦ってきた連中からは、気を感じなかったけどなあ・・・」
トランクス同様、悟天にとってもフリーザを見るのは初めてだったが、彼の場合、フリーザは怖い義父であるレードとそっくりだったので、苦手意識を感じていた。
「ふん。冥土の土産に教えてやる。僕が並々ならぬ潜在能力を秘めていると見抜いたドクター・スカルは、従来の改造ではなく、新技法による改造を行った。それは機械化ではなく、潜在能力を何倍にも高め、一気に開放するもの。それによって超パワーアップした今の僕には、最早ゴールデンもブラックも必要ない。この姿のままで戦うのがベストなのさ」
かつて老界王神によって潜在能力を限界以上に開放された悟飯は、超サイヤ人に変身せず戦った。変身するより元の姿のままで戦う方が、効率的に引き上げられた力を使えると判断したからであるが、それと同じ事をフリーザが実践した。
フリーザは、途方も無い潜在能力を秘めていた。そのお陰で熱心に訓練を積まなくても、超サイヤ人になったばかりの悟空と、途中まで互角に渡り合う事が出来た。それに対して兄のクウラは、フリーザより一回多く変身出来るとはいえ、フリーザほどの才能がある訳ではなかった。しかし、一日に七個もの星を征服しようとした事から見ても分かる通り、クウラは根が真面目で訓練も怠らなかったので、才能の上に胡坐をかいていた弟のフリーザより強かった。
しかし、新技法によるパワーアップは、その人の持つ潜在能力によって大きく左右される。もしクウラが新技法で改造されても、今のフリーザには到底及ばない。クウラばかりでなく、他の戦士達が持つ潜在能力も、フリーザ程ではない。唯一人、フリーザの細胞を使って造られたセルだけは、フリーザに匹敵する潜在能力を持っていた。
フリーザとセルだけが新技法で改造される対象者となったが、潜在能力が高いだけの理由で、この二人が選ばれた訳ではなかった。新技法で改造された後に裏切られる事を、ドクター・スカルは何より恐れていた。その点フリーザは、悟空達に対して深い恨みを抱いていたので、改造後に悟空側に付き、ドクター・スカルを裏切る事はないと判断されたからこそ新技法での改造を施された。セルもまた裏切る事はないと判断されたので、新技法で改造された。
こうして急激にパワーアップしたフリーザと、彼の義理の孫である悟天が対峙していた。悟天は超サイヤ人4に変身し、トランクスを後方に下がらせると、果敢にもフリーザに戦いを挑んだ。悟天は何度も攻撃を試みたが、フリーザのスピードが速過ぎたので、体に触れる事すら出来なかった。
「ふっふっふっ・・・。その程度の実力で、この僕に敵うと思ってたのか?」
「うるさい!これでも喰らえ!十倍かめはめ波!」
悟天は悟空の技である十倍かめはめ波を放った。本来なら悟空しか使えないはずの技であるが、悟天は悟空が十倍かめはめ波を出す所を何度も見、それを元に自分なりに練習し、今では自在に使いこなせるようになっていた。対するフリーザは、右手を前面に出し、十倍かめはめ波を片手で受け止めた。
「うぐぐぐ・・・。小癪な真似を!ぐあおおー!」
悟天が出した十倍かめはめ波は、フリーザの右手の中で爆発した。しかし、フリーザの右手は吹っ飛ぶどころか、大きなダメージすら無かった。とっておきの技すら効かなかったので、悟天はフリーザの底知れぬ力に驚愕した。
「まさかこれほどの技を使えるとは・・・。今のは痛かった。流石は孫悟空の息子とでも言うべきか・・・。サイヤ人め!」
悟天の攻撃は、フリーザを怒らせただけだった。短気なフリーザは、すぐに反撃に転じ、悟天に連続攻撃を繰り出した。悟天は全く反応出来ず、トランクスの居る所まで吹っ飛ばされた。しかし、圧倒的な実力差を見せ付けられても、悟天は勝負を諦めず、尚もフリーザに立ち向かっていこうとしたが、それをトランクスが制止した。
「悟天。フリーザの力は強大だ。俺やお前が幾ら頑張っても、単独では勝てない。奴に勝つには、フュージョンしかない!」
「断る!そんなのには、もう頼りたくない!」
「悟天!このまま殺されても良いのか!?」
「くっ!仕方ない!」
感情的な理由から、初めは合体を拒んだ悟天だったが、他に打つ手が無いので、止むを得ず了承してトランクスと共にフュージョンポーズを開始した。突然二人が変な踊りみたいなのを始めたので、フリーザは呆気に取られて見ていたが、その間にポーズは完成して二人は合体した。ところが、ゴテンクスの姿は太っていた。久しく合体していなかったから二人の息が合わず、失敗してしまった。
「げげっ!そ、そんなー!」
「・・・この二人は、何がしたかったんだ?下らん。こんな茶番に付き合う気は無い」
フリーザの一撃を喰らったゴテンクスは、合体が解け、元の二人に戻った。一度合体が解けてしまえば、すぐに再合体出来ない。頼みの綱の合体が出来なければ、もう悟天とトランクスに、フリーザに対抗する手段は残されていなかった。最強の敵を前に、二人は最大のピンチを迎えていた。
コメント