其の七 才色兼備な悪女

パンは超サイヤ人に変身して動きが格段に良くなり、リブマシーンから繰り出される攻撃を上手く避けられるようになった。その結果、誰もパンを守る必要がなくなり、悟空達はリブマシーンの撃退に専念出来るようになった。形勢は悟空達の一方的な展開となり、リブマシーンの全滅は時間の問題となった。

一方、この戦いをモニター越しで観戦していたドクター・リブは、リブマシーンの不甲斐ない戦いぶりに苛立ちを隠せないでいた。その時、ドクター・リブの背後から甲高い声が聞こえてきた。

「随分弱いロボットね。あんなのしか居ないんじゃ、折角見つかったサイヤ人の末裔の力が見られないじゃない」

ドクター・リブが後ろを振り返ると、そこには二人の屈強そうな男を左右に侍らせた、白衣を着た女性が立っていた。その女性は相当な美人で、知的な雰囲気を醸し出していたが、優しさが微塵も感じられなかった。さながら妥協を一切許さない優秀な社長秘書のようであった。

「ドクター・ハート!?お久しぶりです!わざわざサイヤ人を見に、お越し頂いたのですか?」

ドクター・リブは、その女性を見るなり、立ち上がって敬礼した。

「当然よ。サイヤ人を発見したという報告を受けたから、惑星ジニアから急いで駆けつけたのよ。あの娘が超サイヤ人?ごつい男を想像していたけど、随分可愛らしい子ね。確かに超サイヤ人みたいだけど、古い文献に記述された強さとは大分違うわね。他の連中も超サイヤ人になれると思うけど、あなたのロボットが弱過ぎて、彼等の力を引き出せそうもないわね。あんなロボットで今まで銀河を征服出来ていたのかと思うと、これまで担当した銀河には雑魚しか居なかったようね」

ドクター・ハートの嫌味に、ドクター・リブは憤慨した。しかし、実際にリブマシーンは悟空達に手も足も出なかったので、言い返し辛かった。

「あのリブマシーンは、協力者達でも製造出来るように構造が単純になっています。設計図さえ見せれば、知能指数が五百以上ある者なら誰でも造れます。ですが、リブマシーンは、あれだけではありません。俺にしか造れない強化リブマシーンもあります。それで奴等を倒して見せます」
「あら?そんなのがあるんだ。でも、その強化リブマシーンとやらを使うのは構わないけど、彼等を殺しては駄目よ。捕まえて、じっくり研究したいんだから」

その頃、悟空達は全てのリブマシーンを倒し終え、一息付いていた。

「ふー、やっと終わったか。思ったより時間が掛かったな」
「でも、悟空さん。俺達が戦っている間に、悟空さんが捕まえた男が逃げてしまいました。これからは、あの男抜きでドクター・リブを探さないといけません。果たして見つかるでしょうか?」
「心配すんな、ウーブ。あのロボットが、あんなに多く居た事から判断して、ドクター・リブが、この星を本拠地にしているのは間違いないだろう。皆で手分けして探せば、いずれ見つかるさ」

悟空とウーブの会話に、突然ベジータが割り込んできた。ベジータはパンを横目で見ながら、嫌味を述べた。

「皆で手分けして探すのは構わんが、足手纏いになる者は外した方が良いんじゃないか?先程の戦いも、そいつが居なければ、もっと早く片が付いていた」
「ちょっと、ベジータさん!足手纏いって、ひょっとして私の事?」
「他に誰が居る?貴様は、リブマシーンを一体も倒してないではないか!これからは更に厳しい戦いが予想される。これ以上俺達の足を引っ張る前に、レードの宇宙船の中で待機していろ!」

ベジータの言及通り、パンはリブマシーンを一体も倒せなかった。パンは超サイヤ人になって以降、果敢に攻撃を繰り出していたが、残念ながらリブマシーンには通じていなかった。

ベジータの手厳しい言葉に、パンは大きなショックを受けた。しかし、これはベジータなりの優しさだった。パンが戦い続ければ、いつか殺されるかもしれない。そう思ったベジータが、わざと辛辣な言葉を浴びせて、パンを戦いから遠ざけようとした。ところが、トランクスがパンを庇った。

「リブマシーンは倒したんだし、その話は終わりにしようじゃないですか。今は一刻も早くドクター・リブを探し出しましょう。ぼやぼやしてると、この星から逃げられるかもしれません。パンちゃんは、俺に付いて来て」
「・・・うん。ありがとう、トランクス」

ベジータに足手纏いと指摘されて、流石のパンも落ち込んでいたが、トランクスに励まされて、若干元気が出てきた。

その後、悟空達は四方に散って捜索活動を開始した。ある者は工場の中に入って、そこに勤めていた者達に、ドクター・リブの所在を問い詰めた。またある者は、町にある家々を訪ね歩いた。こうした悟空達の様子も、ドクター・リブやドクター・ハートに監視されていた。

「どうやら彼等は、バラバラに分かれてあなたを探しているようね。どうするの?このままじゃ、いずれ見つけられるわよ」
「奴等がバラバラに別れたのなら、話が早いです。四体の強化リブマシーンを使って、一人ずつ叩き伏せて見せます」

広大な工場の敷地の中で、ドクター・リブの捜索を続けていたトランクスとパンだったが、そんな彼等の目の前に突然、一体のリブマシーンが現れた。

「またリブマシーンか。でも、ボディの色が違うな。これまでのリブマシーンは白一色だったが、こいつは黒一色だ」
「トランクス。こいつは今までのリブマシーンより強いと思うわ。これまでのリブマシーンは、徒党を組んでいたのに対し、こいつは一体だけで戦うつもりだから」
「ああ。分かってる」

トランクスとパンの前に現れたのは、強化リブマシーンだった。また、トランクスとは別行動で捜索活動をしていたピッコロ、ウーブ、そしてレードの元にも強化リブマシーンが出現した。どの強化リブマシーンも眼前の標的に襲い掛かり、四箇所で同時に戦闘が開始された。

強化リブマシーンは、普通のリブマシーンより遥かに強かった。そのため、レードを除く三人は苦戦を強いられた。ピッコロは重いターバンとマントを脱ぎ捨て、ウーブは魔人化した。そして、トランクスは超サイヤ人3に変身したが、それを観ていたドクター・ハートは、興奮して大声で叫んだ。

「あ、あれは!?あの娘のとは違う外見だけど、あれも超サイヤ人に違いないわ!文献には、超サイヤ人は複数の形態があるって書いてあったもの!この目で実際に超サイヤ人の戦いが観られるなんて感激だわ!さあ!超サイヤ人の強さを、じっくりと観させてもらうわ」

ドクター・ハートがトランクスの映ったモニターに注目している頃、別のモニターには、他の三人が戦ってる様子も映し出されていた。ピッコロは身軽になっても、まだ強化リブマシーンの方が強かった為に苦戦を余儀なくされた。ウーブは互角の展開だった。そして、レードは強化リブマシーンが相手でも、一方的に優勢だった。

「気から判断して、どうやら他の連中の元にも、こいつと同タイプのリブマシーンが現れたらしいな。あいつ等の実力では苦戦は必至だが、この俺は違う。さあ!一気に片付けてやる!」

レードは目の前の強化リブマシーンに飛び掛かった。リブマシーンのよりも数倍硬い装甲だったが、それを素手で破壊し、指先から光弾を何度も放った。それだけ攻撃を受けても強化リブマシーンは活動を停止せず、レードに向けて前進したが、スピードは急激に落ちていた。

「ほう。思ったよりも頑丈だな。手加減し過ぎたかな?だが、それもここまでだ。これで終わりにしてやる」

レードは指先に気を溜め、巨大なエネルギー球を作り、それを強化リブマシーンに向けて放った。強化リブマシーンは大爆発を起こし、跡形もなく木っ端微塵になった。

「知能指数八百と聞いて警戒していたが、ドクター・リブは、この程度のロボットしか造れないのか?これだったら俺が敗れる事は、まずない。ちっ。アイスの交際を急がせたのは失敗だった。今からでも別れさせられないかな?」

レードが強化リブマシーンを余裕で壊した映像を観て、ドクター・リブは恐れ慄いていた。そんなドクター・リブの様子を見て、ドクター・ハートは笑った。

「あらあら。強化リブマシーンは、あなたにしか造れない特別なロボットじゃなかったっけ?それが随分あっさり壊されちゃったわね。やっぱり弱いロボットしか造れないようね」
「お、俺のロボットが弱いんじゃない!奴等が強過ぎるんです!こんな化物共が居るなんて初めから知っていたら、この銀河を攻め滅ぼすよう指示された時、辞退してましたよ!」
「確かにあなたでは、この銀河の支配は無理ね。でも、安心しなさい。今は私が居るんだから」

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