其の九 一番強い奴

悟空達は、散り散りになってドクター・リブを探し続けていた。しかし、何の手掛かりも無しに人探しをするというのは、決して容易ではなかった。

悟空やベジータは、それぞれ別々に、中から気を感じる家々を訪ねて回っていたが、家の中に居たのは、協力者達に奉仕するメイド達だけだった。家の主である協力者達は、別の星を侵略中であり、家の中には居なかった。メイド達は征服された星から、協力者達を世話するために無理やり連れて来られた者達で、ドクター・リブについて詳しくは知らなかった。悟空達がドクター・リブの居場所を尋ねても、彼女達は脅えるばかりで返答が無かった。

結局、有力な情報を得られないまま時間だけが過ぎていく事に業を煮やしたベジータは、悟空と会って、ある提案を持ちかけた。

「このままでは埒が明かない!ならばいっそのこと、この星を破壊するべきだ!女達を全員、別の星に避難させた後でな」
「それだと、ドクター・リブの生死を確認出来ねえだろ?皆が手分けして探してるのに、見つからないとなると、もしかしたら既に別の星に逃げちまったかもしんねえ。でも、諦めねえで、このまま探そうぜ。例えドクター・リブが居なくても、奴の逃亡先が分かるかもしんねえしな」

他方、強化リブマシーン撃破後、工場の中で聞き込みを再開したトランクスとパンだが、工場の中に居たのは科学者達だけだった。彼等は知能指数が五百以上あり、「Aランク」の協力者に格付けされていた。彼等は、その優秀な頭脳のせいで連行され、リブマシーンを造るように洗脳されていた。トランクス達が彼等に話し掛けても、空ろな表情のまま命令された作業を淡々と行うだけで、何も応えなかった。パンが正気に戻すために一人の頬っぺたを軽く引っ叩いたが、効果は無かった。

「もう!この人達が正気に戻れば、ドクター・リブの居場所を訊けるかもしれないのに!」
「彼等の洗脳を解くのは、時間が掛かるだろう。でも、他に教えてくれそうな人が居そうもないし、ここは時間を掛けて彼等と向き合い、洗脳を解こうじゃないか。焦っても仕方ない」

トランクスとパンは、リブマシーンを造るための機械を壊し、その部屋に居た科学者達の作業を止めさせた。そして、呆然と立ち尽くしている彼等に、大声で呼び掛けた。

「皆さん!もう皆さんは、リブマシーンを造る必要はありません!自由になったんです!」
「私達は、これからドクター・リブを懲らしめてやるわ!でも、奴の居場所が分からないの!お願い!力を貸して!」

トランクス達の呼び掛けに、科学者達は全く反応しなかった。しかし、トランクス達は、根気よく呼び掛けを続けた。

悟空達がドクター・リブを探している一方で、レードは自分の宇宙に戻り、奥の部屋でワインを飲んで寛いでいた。そんなレードの元に、ウーブが怒鳴り込んで来た。

「レード!こんな所で何してるんだ!?皆はドクター・リブを探しているというのに・・・」
「王たる者は、退屈な仕事をしない。俺自らが動く代わりに、この宇宙船の中で待機していた部下達が動いている。あらかた敵を倒したから、非力な部下でも一人で飛び回って大丈夫だろうからな」
「今は一人でも多くの協力が必要なんだ!お前もさぼってないで、さっさと外に出て探せ!」

ウーブの言葉に、レードは笑った。

「闇雲に探しても見つかるまい。まずは情報収集だ。現在、部下達は四方に散り、何らかの情報を得れば、こちらに連絡する手筈になっている。だから、俺がここを離れては、まずいだろ?分かるかね?ウーブ君。ひっく」

レードはワインの飲み過ぎで、少し酔っていた。ウーブは「駄目だ、こりゃ」と言い残して、この場から立ち去った。

所変わってピッコロだが、彼が強化リブマシーンから受けたダメージは、決して小さくなかった。そんな状態で再び敵と戦えば、今度こそピッコロの命が危ない。それを危惧した悟飯は、以後ピッコロと行動を共にする事にした。ピッコロは、口では「一人で大丈夫だ」と強がっていたが、それが虚勢に過ぎない事を悟飯は知っていた。

そして、悟飯とピッコロが二人揃ってドクター・リブ探しを続けていると、得体の知れない男二人が飛んで来た。その謎の男二人は、悟飯達の目の前で降り立った。この男二人からは気を感じられなかったので、悟飯達は彼等が目前に迫るまで、その存在に気付かなかった。

男二人の内の一人は、身長が二メートルを越す長身で、筋骨隆々の体をしており、無愛想な表情だった。もう一人の男は、身長が一メートル八十ぐらいで、均整の取れた体をしており、端整な顔立ちだった。この二人こそが、ドクター・ハートが連れて来た「坊や達」だった。

ピッコロは、この男二人に不吉なものを感じつつ、問い質した。

「お前達は何者だ?一体、俺達に何の用だ?」
「威勢が良いな。だが、俺達が用があるのは、そっちの男だ」

無愛想な男は、そう言って悟飯を指差した。指名された悟飯は、ピッコロに代わって質問した。

「この俺にだと?一体、何の用だ?」
「お前は侵入者達の中で、一番強いと見た。そのお前と戦い、真の実力を確かめに来た」
「大した自信だな。二人で来たという事は、二人掛かりで俺一人と戦う気か?」
「戦うのは俺だけだ。もう一人は見物人だ。今の所はな」

この男二人からは気を感じられないので、力を推し測る事は出来ないが、悟飯は直感で、二人とも相当な実力者であると悟った。それはピッコロも同様であった。男二人を危険視したピッコロは、悟飯に話し掛けた。

「気を付けろ、悟飯。こいつ等は只者ではないぞ。おそらく気を感知する能力がある。そして、お前が俺達の中で一番強いと見抜いた上で、お前に挑戦してきた。己の強さに絶対の自信がある」
「ピッコロさんは危険ですから、下がって下さい。この男の要望通り、俺一人で戦います」
「分かった。敵は二人いるから、出来れば俺も戦いたいが、この傷では、満足に戦えそうもない。例えダメージを負っていない状態でも、俺が役に立つとは限らんがな」

悟飯に促され、ピッコロは後方へと退いた。端正な顔立ちの男も後退した。かくして悟飯と、無愛想な男が対峙した。

「戦う前に名前を訊いておきたい。俺の名は孫悟飯。お前達の名は?」
「俺の名はハートボーグ五十七号。もう一人は、ハートボーグ五十六号だ」
「ハートボーグ?お前達は、ドクター・リブによって造られたから、リブボーグじゃないのか?」
「それは違う。俺達は、ドクター・ハートに改造されたサイボーグだ。だからハートボーグだ」
「お前達の正体はサイボーグか・・・。そして、そのドクター・ハートとやらも、ジニア人だな」

自らをハートボーグと名乗る、この男二人からは気を全く感じなかったので、彼等が生身の人間ではないと悟飯は当初から気付いていた。

「俺からも訊きたい。お前は、サイヤ人に相違ないな?」
「何!?どうして俺がサイヤ人だと分かった!?それよりも、どうしてサイヤ人の事を知っているんだ!?お前達は遥か遠い銀河から来たはずなのに・・・」
「サイヤ人は方々の銀河で暴れ回り、その伝承が各銀河に残っている。例えば、サイヤ人の中には、超サイヤ人となって、比類なき強さを発揮した者が居たとかな」

悟飯は以前、ベジータから聞いたサイヤ人の歴史を思い出していた。かつてのサイヤ人達は、惑星プラントに漂着し、そこに元々住んでいたツフル人と戦って、星を奪い取ったと。しかし、それ以前については、ベジータも詳しくは知らなかったので、これ以上の話を聞けなかった。

惑星プラントに移り住む前のサイヤ人達は、何処か別の星で暮らしていたはずである。そして、サイヤ人は、他種族より戦闘力が高い上に、自ら食糧を生産するという話を聞いた事がない。行く先々で食料を強奪し、食料が無くなれば別の星に移動する。そして、サイヤ人の凶暴性と食欲、更には悠久の時を考慮すると、その流浪は一つの銀河に収まらず、別の銀河にまで及んだのだと、悟飯は推測した。

「サイヤ人の話は耳にするが、実際に会った事は一度もなかった。だから俺達は、サイヤ人が既に絶滅したと思い込んでいた。だが今日、ようやくサイヤ人に会えた。かつてのサイヤ人は、他を寄せ付けない、最強の力を誇っていたという。その力が残っているのかどうか、俺が見極めてやる」
「俺の実力が、かつてのサイヤ人に匹敵するかどうかは知らない。しかし、お前がジニア人に組する以上、俺はお前を倒す!」

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